後遺障害

間違いだらけの高次脳機能障害

間違いだらけの高次脳機能障害 第1回 Q&A

この章に出てくる質問

高次脳機能障害の障害者の症状の内容や程度について、最も有益で多くの情報を掴んでいる人は、次のうち誰ですか?
高次脳機能障害を診てもらうには、どのような病院がいいのでしょうか。また、専門医は、脳神経外科医、精神科医、リハビリテーション科医、どの科目の医師ですか?
高次脳機能障害であっても、精神錯乱状態が酷い場合は、認知リハビリを受けさせてもらえないと聞きました。他のリハビリ患者さんに迷惑だからでしょうか? 高次脳機能障害の認知リハビリの適応を教えて下さい。
高次脳機能障害の認知リハビリは、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士、どのセラピストに指導してもらうのが一番いいのでしょうか?
高次脳機能障害の神経心理学的テストとしてどのようなものがありますか。代表的な各テストのそれぞれの特色について教えて下さい。
神経心理学的テストの有用性については、医療従事者の間でも、テスト結果は参考になるとか、あまり参考にならないとか、意見がわかれているようです。どうしてこのように意見が分かれているのですか? その事情について教えて下さい。

 

 

高次脳機能障害の障害者の症状の内容や程度について、最も有益で多くの情報を掴んでいる人は、次のうち誰ですか?
  1. 主治医(脳神経外科医、精神科医、リハビリテーション医)
  2. セラピスト(言語聴覚士、作業療法士、臨床心理士)
  3. 同居の親族・職場の同僚
同居の親族・職場の同僚です。

 

解説

1 順番

答えの理由は簡単です。事故前と事故後を通じて、実生活での障害者の赤裸々な問題行動を直接見ている時間が圧倒的に長いからです。実生活で接している時間の長さがポイントですから

 

  1. 同居の親族・職場の同僚
  2. セラピスト(言語聴覚士、作業療法士、臨床心理士)
  3. 主治医

 

の順番となります。
以下、主治医、セラピスト、同居の親族・職場の同僚の順に検討していきます。

 

2 主治医

主治医は、障害者と接している時間はせいぜい5分程度と短いこと、診察室は実生活とは対極にある静謐な環境で、障害者に対するストレスがないこと、障害者も5分程度であれば礼儀正しくしていられること等から、障害者の問題行動が把握出来ません。高次脳機能障害に精通する医師は、診察室の中での数分の診察(望診、視診・問診)では患者の障害像を知るには限界がある(むしろ何もわからない)ことをよく知っておられます。ですから、必ず、セラピストや同居の親族の方からの情報を精査し検討しています。

 

3 セラピスト

セラピストは、リハビリルームという限られたスペースで最低でも1時間、グループ(集団)リハビリとなれば半日近く障害者に接していますそして、時間がたつと障害者も消耗し、ストレスが溜ってきます。またリハビリ期間は1年を超えるケースが大半です。そうすると、セラピストと障害者との壁も無くなり、セラピストは障害者の問題行動を把握しやすくなります。とにかく、セラピストの障害者が抱えている具体的な問題行動に対する情報量の多さは、主治医を圧倒していますですから、障害者の症状の内容や程度について主治医はセラピストから情報を求めるのです。

 

ただ、セラピストも、障害者の具体的な問題行動をすべて正確に把握しきれているわけではありません。それは、リハビリルーム内では、実生活における障害者の問題行動がそのままストレートには顕現しないという限界があるからです。

 

障害者がリハビリルーム内にいるときは、実生活や仕事場面のような複雑で漠然とした情報に瞬時に反応しなければならないという環境にはありません。限定された特定の課題を達成するという目標が定められ、その課題を達成するため、セラピストは障害者の集中力を高めることこそす れ、作業を阻害することはしません。ところが、実生活では、作業中に電話での問い合わせ、突然の指示内容の変更等、障害者にとっては、予期せぬ課題が生 じ、それに対し臨機応変に柔軟な対応をすることが求められます。以上の結果、リハビリルーム内では、記憶や注意やプランニングといった認知機能につき特に問題がないとされる場合でも、実生活においては圧倒的な情報量の中で対処できずにパニックになったりする障害者は稀ではありません。

 

このようなことから、静謐な環境の下で作業目的が特定されているリハビリルーム内では、実生活における障害者の問題行動が ストレートに顕現しにくいので、セラピストは、同居の親族や職場の同僚が指摘する障害者の問題行動を想像は出来ても実体験出来ないという限界があるので す。セラピストはそのことをよく知っておられます。

 

補足

さらに、セラピストは、治療意欲がない障害者、治療意欲があっても人格情動障害が顕著な障害者、精神科の投薬治療を受けている障害者の問題行動を知ることは出来ません。

 

  1. 病識欠如があって治療意欲がない障害者は、リハビリにまともに取り組もうとしませんから、セラピストにとっては病識欠如以外の問題行動を把握することは困難です。
  2. 治療意欲があっても感情易変や易怒性が激しいなど感情コントロールが出来ない障害者は、リハビリの対象外とされて精神科に回されます。セラピストは障害者の存在すら把握していません。
  3. うつ病を合併していたり、易怒性などの情動障害を抗精神剤によってコントロールしているなど精神科の投薬治療を受けている障害者もリハビリの対象外とされています。投薬治療によって、集中力ないし注意力が低下しているため、リハビリ適応がないからです。

 

4 同居の親族・職場の同僚

このように、リハビリルームによる障害者の問題行動の把握には限界があることから、主治医もセラピストも、同居の親族や職場の同僚などから、実生活での具体的な問題行動を入手しようとするのです。

神奈川リハビリテーション病院・リハビリテーション部長大橋正洋医師は、その著書で、「障害認定の場面では・・患者と生活を共にしている家族や・・職場の上司や同僚などからの報告が、医学的検査所見や神経心理学的検査所見と同じくらいに重要な判断材料」と明言しておられます。

 

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高次脳機能障害を診てもらうには、どのような病院がいいのでしょうか。また、専門医は、脳神経外科医、精神科医、リハビリテーション科医、どの科目の医師ですか?

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