高次脳機能障害で泣き寝入りしないための10の鉄則:~未だに見放され途方に暮れている高次脳機能障害者とその家族~

~未だに見放され途方に暮れている高次脳機能障害者と
その家族~

鉄則
1
交通事故被害で泣き寝入りしない7つの鉄則の遵守
鉄則
2
自動車事故の場合は、加害車両と被害車両の損傷状況の写真を確保
鉄則
3
「何か変だ」「以前と様子が違う」と感じたら日から、症状やエピソードを克明に逐一メモしておき、その具体的症状経過について時系列表を作成
鉄則
4
主治医に3の時系列表を交付して情報提供し、カルテに綴じてもらう
鉄則
5
職場の上司や同僚の陳述書、セラピストの報告書、作業所の指導員の報告書等を作成
鉄則
6
3の時系列表とは別個に陳述書を記載し、その陳述書と5の陳述書を自賠責保険に提出する日常生活状況報告書の別紙として添付
鉄則
7
主治医が自賠責保険に提出する「神経系統の障害に関する医学的所見」を記載する前に、6の日常生活状況報告表を交付して主治医に情報提供
鉄則
8
CTやMRIで脳の損傷が判然としない場合は、最低でも脳神経損傷の神経学的所見、神経心理学的検査所見、出来ればSPECTかPET、さらに理想を言えば脳拡散テンソルMRI所見を得ておく。
鉄則
9
主治医が画像だけで判断するタイプの場合は、高次脳機能障害自立支援普及事業・地域ネットワークに所属している医療機関に転院し、各種神経心理学的テストを受け認知機能のスクリーニングをする。
鉄則
10
認知リハビリは可能な限り継続する。

高次脳機能障害は、近時においてようやく、徐々に社会的認識が得られつつありますが、まだまだ不十分な状態です。医学的にも未解明な部分が多く、診断基準も確立されているわけではありません。
そもそも脳外傷による高次脳機能障害の分野では、脳損傷(びまん性軸索損傷)を確認できる明確な科学的方法はありません。

脳外傷の先進国であるアメリカやオーストラリアにおいては、受傷後の意識障害レベルが軽度で、しかもCTやMRI画像で脳損傷所見が確認できないケースでも、脳外傷による高次脳機能障害を診断する基準が設けられ、認知リハビリやその他の支援体制があります。
ところが、そのようなアメリカやオーストラリアに遅れること20年と評価されている日本では、精通する専門医が極端に少なく、多くの医療機関において見過ごされ、治療の対象外として放置されている現実が根強く残っています。

すなわち、脳外傷による高次脳機能障害であるのに、脳神経損傷の神経学的検査を全く実施せず、CTやMRIの画像だけ見て「異常がないから脳外傷はない」と簡単に「異常なし」の『診断』がされ、治療の対象外とされ放置されている被害者が少なくありません。

特に受傷直後の意識障害や身体機能の障害の有無や程度が判然としなかった人に多く(というより大半)見受けられます。これら見捨てられた人は、一見すると健常人と見分けがつかず、脳に障害がある人であるとは容易にはわからないことから、社会の理解も得られず、就労や就学といった社会生活が不能となり、自宅に引きこもってしまい症状を悪化させてしまっています。
そして、平成18年10月に施行された高次脳機能障害自立支援普及事業に基づき各地方や地域で構築された自立支援地域ネットワークも地域間格差が大きく、高次脳機能障害の鑑別診断や認知リハビリのノウハウやスタッフを備えている医療機関は僅かであり、まともな診断やリハビリを受けるためには、遠く県外まで出かけなければならない現状が未だに残っています。

このように“見えない障害”をもつ軽症の脳外傷者は、社会的に理解されていないばかりか、医療の場においても適切に処遇されていない現状が根強く残っています。
そして、自賠責保険の後遺障害認定基準や手続きも多くの問題を含んでいて、高次脳機能障害であるのにそれを否定して非該当か頸椎捻挫その他で12級から14級の後遺障害の認定をしているにとどまり、裁判所もその自賠責保険の認定を追認する傾向が顕著です。

その結果、高次脳機能障害者とその家族は、最初に、医師・医療機関から見放され、以下順次、社会福祉施設・自賠責保険・依頼した弁護士・自賠責保険の認定に追随する裁判所から見放され、自助努力を強いられながらも途方に暮れています。

加害者本人及びその関係者・医師・医療機関・行政・自賠責保険の認定スタッフ・依頼された弁護士・裁判所、誰も責任をとろうとはしません。

  • 名古屋市騒動リハビリテーションセンター・リハビリテーション部長・
    医師蒲澤秀洋医師の指摘


    「当センターで日々脳外傷者の診療を行っていると、救急搬送された医療機関において、脳外傷でありながら脳外傷と診断されず、『異常なし』と診断されて在宅生活や社会生活の場に送り返されている脳外傷者が、如何に多いかに気づく。これらの脳外傷者のなかには、後遺症としての高次脳機能障害によって就労や就学が困難なために、自宅に引きこもってしまう者、いったんは復職あるいは復学をしても、高次脳機能障害や感情コントロールの障害があるためにトラブルを容易に引き起こし、社会生活を継続することが困難になる者が大勢いる。これらの脳外傷者の背景を調べてみると、身体障害がなく(あってもごく軽症)、高次脳機能障害もごく軽症のために見過ごされていて、救急搬送された医療機関においては『治療すべき病態がない』と判断された。いわゆる”見えない障害”をもつ軽症の脳外傷者であった。」

    「以上のように、”見えない障害”をもつ軽症の脳外傷者は、社会的に理解されていないばかりか、医療の場においても適切に処遇されていない現状があると考えられる。」

  • 神奈川リハビリテーション病院・リハビリテーション部長・大橋正洋医師の指摘


    「意外なほど医師からの的確な説明や対応法の指示がないことが多い。家族はとまどいながらも患者の問題行動への対応に追われている。」

    「画像検査でほとんど所見がない場合でも、重度の記憶や遂行能力の障害、あるいは行動障害を示す場合が多いことを知っておくべきである。」

  • 湖南病院名誉院長である石橋徹医師による警鐘

    本邦では『鞭打ち損傷は頚椎の疾患である』という考えを持つ医師が多い。ところが、鞭打ち損傷では頚椎が異常な動きをして脳に負担を掛けるために、
    軽度外傷性脳損傷mild traumatic brain injury(mildTBI)という脳の病気が起こることがある。この病気は毎年世界で1,000万人が罹ると推定されるほど頻度の高い病気であるが、本邦では殆ど注目されておらず、知られていない。本邦では、この病気の被災者は、通常の鞭打ち損傷と診断されて脳障害は見過ごされやすい。この病気の究極の治療法は再生医療であるが、現在この病気のために家庭復帰や社会復帰が出来ない方々に対して医療と福祉の両面から支援が必要である。軽度外傷性脳損傷は、脳の中で軸索と呼ばれる神経線維があちこちで機能しなくなり、脳の中で一種の停電が起こることであり、それによって起こる症状は、記憶力や理解力が衰えたり、根気がなく、怒りっぽくなったり、失神や痙攣発作が起きたり、脳神経が麻痺して臭いや味が分からなくなったり、目が見え難くなったり、耳が聞こえ難くなったり、手足の運動や感覚が麻痺して、箸が使い難くなったり、歩き難くなったりと様々である。さらに排尿や排便にも支障を来すことがあり、社会生活へ影響してくる。この病気を診断するには、脳・脊髄・末梢神経を丁寧に診察することだが、脳症状に関連する各診療科、眼科、耳鼻科、泌尿器科の検査を受けると病気が詳しく分かる。この病気では通常のMRIでは画像に異常が出ないことが多く、そのため気のせいにされたり、心身症にされやすいので要注意である。」

このように、専門医からも見過ごされ見放されている高次脳機能障害者、特に軽度の脳外傷の高次脳機能障害者 (M-TBI)が多いことが指摘されているのですが、その原因としては、もともと高次脳機能障害が専門家でも見過ごしやすい『見えにくい障害』だからだ、 と説明されているのが通常です。
しかし、その真の原因は、そもそも関係当事者全員が「まともに見ようとしなかったから見えない」という点にあるように思えてなりません。
本稿では、真の原因がそこにあると考え、見過ごされることなく、適正な後遺障害の認定を受ける方法につき、アドバイスしたいと思います。

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はじめに

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高次脳機能障害の一般的理解

高次脳機能障害で泣き寝入りしないための10の鉄則
はじめに
~未だに見放され途方に暮れている高次脳機能障害者とその家~
高次脳機能障害の一般的理解
自賠責保険の後遺障害等級認定
システムの概要
自賠責保険で
適正な等級認定を受けるポイント
自賠責保険の等級基準及び
認定上の問題点
軽度外傷性脳損傷(M-TBI)に
よる高次脳機能障害1
軽度外傷性脳損傷(M-TBI)に
よる高次脳機能障害2