後遺障害

脊髄損傷被害者とそのご家族の方へ

第4 合併症予防のための介護

1 長期臥床が身体に与える悪影響

頚髄損傷のため首から下を全く動かすことができないため、生涯の大半の時間を臥床状態で過ごすことになります。
長期間の臥床状態(寝たきり)は、身体及び精神に様々な悪影響を及ぼすことになります。

 

(1) 身体面

座位や立位のときには、身体が倒れないようにするために重力に対して様々な抗重力メカニズムが働きますが、寝たきりではこれが作用しません。そのため、以下のような影響が生じます。

 

  1. 筋力の低下
    臥位では、重力に対抗するための筋肉の緊張を要しないため、筋力が低下し萎縮します。その結果、関節も拘縮します。
  2. 肺機能の低下
    仰向けに寝ている場合と重力下の直立姿勢とでは、肺活量に約20パーセントの差が出ます。寝ている状態では換気能力が低下し、体力や予備能力の低下を招きます。
  3. 循環機能の低下
    心臓も寝ている状態では重力に抗して血液を頭のほうなどへ押し上げる必要がないため、心臓、動脈の機能が低下します。
    また、臥位から立位になる際には、交感神経が働き、大量の血液が下肢に貯留することによる血圧の低下を防止していますが、臥位状態が続けばその働きが障害を受け、起立性低血圧を引き起こします。
  4. このように、人間の体は使わなければ機能がどんどん低下していき、廃用性症候群と呼ばれる様々な症状が現れ、最悪の場合には、死に至ることもあります。

 

(2) 精神面

精神面でも、「自分はもう元気になれない。」という絶望感、不安感、恐怖感が募り、反応性抑うつ状態(沈みがち、無気力、暗い)、無為無欲状態、仮性痴呆(軽い意識障害)、睡眠障害などの精神心理的障害を起します。

 

2 主な合併症

以上のような長期臥床による影響だけでなく、脊髄損傷固有の原因も重なって、脊髄損傷患者には、様々な合併症や併発症が生じます。

 

(1) 褥瘡
  1. 褥瘡とは、骨の突出した部位など局所が持続的に圧迫されて血行が阻害されることにより、皮膚及び皮下組織に虚血性変化、壊死、潰瘍などが生じる状態をいいます。
    局所の持続的圧迫のほかに、栄養状態の悪化、血圧の低下、皮膚の湿潤・不潔・摩擦・ズレ等による皮膚組織の耐久性低下などの因子も褥瘡の発生・悪化の要因となります。
  2. 褥瘡は、一度発生するとケアと治療に最も難渋し、治癒に至るまで数か月を要することもざらにあります。
    また、処置に伴う介護負担と介護者の精神的ストレス、衛生材料などの経済的負担を強いられることになります。
  3. 褥瘡を予防するためには、臥位時には、エアマットなどの体圧分散寝具を利用するとともに、原則として2 時間に1度は体位交換を行う必要があります。体位交換は、皮膚の摩擦を避けるため、2人以上で行うこととされています。座位時には、正しい姿勢を保持する とともに、1時間以上の座位を避けなければなりません。
    また、皮膚を清潔で乾燥した状態に保つために、入浴、清拭等を積極的に実施します。特に褥瘡の好発部位である仙骨部や尾骨部は肛門に近いため汚染しやすいことから、失禁のケアを積極的に行う必要があります。
    さらに、口腔ケア、食事形態や食事体位の工夫、栄養士のアドバイスなどにより、栄養状態を改善する必要もあります。

 

(2) 関節拘縮
  1. 脊髄損傷患者は、運動麻痺と安静臥床・局所安静による不動化、痙性による筋短縮などで関節拘縮を起こしやすい状態になります。関節拘縮が起きると、ADLに支障が生じるだけでなく、褥瘡発生の要因にもなります。
  2. これを防止するためには、上肢・下肢・体幹の各関節を受傷早期から動かすことが重要となります。本来、 他動運動から他動自動運動、自動運動へと進めていくことが望ましいのですが、療養者は他動運動しかできないことから、上肢・下肢・体幹のすべての関節につ いて十分に他動運動をさせるために、必然的に人手と時間が必要となります。

 

(3) 自律神経機能障害

脊髄損傷により自律神経の機能が障害されるため、起立性低血圧、自律神経過反射(発作性高血圧、発汗、頭痛、頭重感、潮紅、徐脈、鳥肌現象、鼻閉、胸内苦悶、悪心・嘔吐など)、体温調節障害(特に高温環境下で体温が上昇してうつ熱となる)等の様々な症状が出現します。

 

(4) その他

深部静脈血栓症、痙性、骨萎縮などの合併症ないし併発症も発症しやすくなります。

 

3 まとめ

このように、脊髄損傷患者は、長期臥床による廃用性症候群を含む様々な合併症ないし併発症の危険にさらされています。
これを防止するために、頻繁な体位交換、他動運動、マッサージ、積極的な入浴・清拭・陰部洗浄等の濃密・濃厚な介護が必要となります。
特に体位交換は重要であり、褥瘡を防止するためには、24時間を通じて、2時間おきに行う必要があります。
従って、毎日夜間就寝中でも2?3時間おきに、体位交換を行う必要があるのです。

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