後遺障害

膝の靱帯損傷による動揺関節の被害者の方へ

ポイント

1
『交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則』の鉄則4〜鉄則6の実践が特に重要
2
主治医に「膝関節の動揺性についての所見」に記載されている検査事項を全て実施してもらい、その検査結果を後遺障害診断書に記載してもらう。
3
ストレスX線撮影による検査は必須
4
労災の適用があるときは、迷わず労災で後遺障害の等級申請
5
腰痛が発症したときは、腰痛についても鉄則4〜鉄則6を実践

 

1 動揺関節とは

簡単に言うと、靱帯損傷が治りきらず、膝が前後左右にグラグラした不安定な状態になることを言います。ひどいときは装具をしないと歩行が困難となります。

 

2 靱帯損傷の種類

靱帯損傷は、膝関節の骨折に伴い受傷することが多い傷病です。
靱帯損傷の種類としては、

 

  • 内側側副靱帯損傷(MCL)
  • 外側副靱帯損傷(LCL)
  • 後十字帯損傷
  • 複合靱帯損傷

 

などがありますが、そのうち予後が悪く、脛腓骨神経麻痺、動揺関節などの重篤な後遺障害を残しやすいのは、後十字帯損傷、複合靱帯損傷です。

 

3 靱帯損傷の分類と後遺障害等級

損傷の程度による分類として、医学上は、① 微少断裂・動揺性なし、② 小断裂・動揺性あるもエンド・ポイントあり、③ 完全断裂・著明な動揺性
などに分類されますが、
自賠責保険(労災も同じ)の後遺障害の等級としては、

 

 8 級
労働や日常の行動に支障があり、常時、支柱の入った固定装具(硬性装具)の着用が絶対に必要とされるもの。
10級
労働や日常の行動において多少の支障はあっても、常時固定装具を着用する必要がないもの(軟性装具で足りるもの)。
12級
普通の労働や日常の行動には固定装具の着用を必要とせず、重激な労働などに対してのみ着用するもの。

と分類されます。

 

※ 動揺性による障害の程度については個体差が激しく、ズレの程度が大きい人でも装具なくて歩行可能な人もいることから、ズレの数値だけで等級を判断することは困難であり、等級認定に際しては主治医の意見書を参照して決定しています。

 

4 膝の動揺性の検査方法(自賠責保険はストレスX線撮影を重視)

関節鏡(関節内視鏡検査)、ストレステスト(ラックマン、後方引き出し、前方引き出し等)、ストレスX線撮影があります。

(1) 関節鏡(関節内視鏡検査)

この検査は、麻酔下で関節鏡を直接膝に埋め込む方法です。当然、身体に対する侵襲性が高くなります。ですから、オペを前提としない限り実施されることはありません。

 

(2) 徒手ストレステスト(ラックマン、後方引き出し、前方引き出し等)

この検査は、医師が、直接、自身の手で患者の膝の部分を前後左右にストレスをかけ、膝の動揺性の有無と程度を確認するテストです。
医師が、直接、その目で、患者さんの動揺の程度が確認できるので、このテストは臨床上よく用いられます。
しかしながら、炎症が治まっていない段階でこのテストをしますと、患者が痛がって正確な診察ができないときがありますし、医師の技量によって結果が左右されることから、測定結果の客観性がかけると指摘されています。

 

(3)Gravity sag view

この検査は、患者さんに膝を立てさせて、膝関節より下の足が後方に落ち込むか否かを計測するテストです。簡単なので、実際の臨床では最も多用されているようです。
しかし、このテストはそもそも後方への動揺性だけのテストであり、前方や側方の動揺性には使えません。
また、膝下に何らのストレスも与えないことから、自賠責保険が重視している動揺性の程度が正確に計測出来るかについては疑義があります。

 

(4)MRI

これは、靱帯損傷の部位を診断するにとどまるものです。動揺性の有無や程度を計測するものでありません。

 

(5)ストレスX線撮影(自賠責保険が最も重視している検査方法)

この検査は、患者さんの膝にストレスをかけたままの状態で、膝をレントゲン撮影し、関節間隙、すなわち、膝関節がどの程度開いているかを計測し、数値を求めるものです。
当然、比較的手間隙がかかります。また治療を使命とする臨床からすれば、膝の動揺性の程度を数値化する必要性に乏しく、ストレステスト、Gravity sag viewによって、動揺性の程度を簡単に把握できます。
よって、臨床の現場において、この検査がされることはあまりありません。
この検査方法も、膝にストレスをかけるので、(2)の徒手ストレステストと同様、客観性に欠けるという問題が指摘されていますが、それでも自賠責保険はこ の検査方法を最も重視しています。自賠責保険は、書面と画像だけで等級認定せざるを得ませんが、動揺性の程度が数値化されるだけ他のテストより判定しやす いという事情があるようです。

 

5 労災の適用があるときは、迷わず労災で後遺障害の等級申請

交通事故が、労災保険が適用される場合であれば、労災保険で等級申請した方が正確な等級認定がされます。
それは、自賠責保険が重視しているストレスX線撮影方法では、動揺性の程度が実際は重篤なのに、軽症と判断される場合が多いからです。

 

そもそも自賠責保険の後遺障害認定は、画像所見をほとんど唯一の決め手として動揺性の程度を判断せざるを得ないのですが、それは根本的に無理があります。そもそも画像所見だけで動揺性の有無と程度を正確に判断することは不可能だからです。
回旋の不安定性の有無と程度などがその典型例なのですが、動揺性の有無や程度は画像所見では判然としません。画像所見では不安定性が否定されても、実際には不安定があることが多いのです。
逆に、画像上、顕著な関節間隙が所見されても、固定装具の装着までは必要がなく、実際にも装着していない例は決して少なくありません。
このように、画像所見は動揺性の有無と程度の判断の参考になり得ることはたしかですが、決め手にはなりません。整形外科における臨床医学上も、画像はあくまで補助診断の位置付けに止まっています。
動揺性の有無や程度について、正確に判断するには、実際に患者さんに対し徒手検査(ストレス検査)を実施し、その動揺性の程度を目視下で直接現認することが絶対に必要であり、かつ容易に判断出来ます。

 

この点、労災保険の認定システムは、労災の顧問医が、実際に、被害者と面談し、直接徒手ストレス検査をして膝の動揺性の程度を診るシステムになっています。ですから、動揺性の程度を正確に現認することが出来るようになっているのです。

 

6 『泣き寝入りしないための7つの鉄則』鉄則4〜鉄則6の重要性

靱帯損傷も見えにくい障害のひとつとされています。靱帯損傷していることを医師が見落とし、その発見が遅れてしまうことが少なくありません。

 

何故、発見が遅れるのでしょうか。

 

  • 靱帯を損傷しているときは、足を骨折しているケースが多いのですが、骨折はレントゲンで容易にわかりますが、靱帯損傷はレントゲンでは分かりにくいことが多いからです。
  • また靱帯損傷は、体重をかけて歩行してみて初めて膝がぐらぐらしていることが分かるのですが、足を骨折した患者さんは歩けずに寝ていますから、膝の痛みに鈍感で、自分の膝がぐらぐらして不安定になっていることに気づかないからです。
  • さらに、医師も患者自身も、血が吹き出している骨折の緊急オペだけに意識が向いてしまいます。骨折のオペが 終了すると、今度はギブス固定され、寝たきりの状態になります。ですからやはり膝の靱帯損傷に患者さん自ら気づかないのです。ギブス固定がとれて荷重歩行 をし始めた頃、ようやくにして膝が不安定になっていることに気づきます。

 

このような事情から、発見・治療が遅れて膝関節の動揺性の後遺障害として残ってしまうケースが少なくありません。

 

そして、後遺障害が残っても、

 

  • 膝の動揺性に関する必要な検査がされていない、
  • MRIでも判然としない、
  • 膝の動揺性に関する愁訴すらカルテや診断書に記載されていない、
  • 最後の後遺障害診断書に突如として、膝の動揺性が記載されている、
  • しかも、自賠責保険が動揺性の有無と程度の判断として最も重視しているストレスX線撮影がなされていない。

 

これでは、自賠責保険は、膝関節の動揺性は交通事故との因果関係はないと判断するか、因果関係を肯定しても膝の疼痛で14級の認定をせざるを得ません。
自賠責保険の認定を追認する傾向の強い裁判所も、同様の判断するのが通常です。
泣いても泣ききれない結果となるのが、膝関節に動揺性のある被害者です。
冒頭のポイント1を遵守されることが、望まれるところです。

 

7 不可避的に発症する腰痛

(1)腰痛の発症は下肢に後遺障害ある人の宿命

膝の靱帯損傷も含めて、およそ下肢(とりわけ片方の下肢のみ)に少なくない程度の後遺障害あるときは、やがて不可避的に頑固な腰痛症状になやまされるようになります。
片方の下肢に頑固な疼痛やその他の障害があるときは、それを庇って健側の下肢だけで歩行しようとします。そのような状態が継続すると徐々に骨盤(特に腰椎 に連動する仙骨)に歪みが生じ、その仙骨の歪みが連動する腰椎を歪ませ、腰椎の根っこにある神経根を圧迫するからです。
これは、下肢に後遺障害を残した人の宿命であり、下肢の後遺障害が不可避的に腰痛を発症させることは整形外科における臨床医学の常識と言っても過言ではありません。

(2)腰痛の証拠がないのが通常

ところが、月に一度発行する診断書にも、診察の都度記載されるカルテにも腰痛症状の記載は一切なく、事故から1年ほど経過した頃に作成される後遺障害診断書に突如として腰痛の記載がされるケースが圧倒的に多いのです。
もちろん腰痛に関する神経学テストの結果は記載されていません。そもそも検査していないからです。
事故から1年経過した後遺障害診断書に突如として腰痛の記載がされたときは、自賠責保険が、腰痛について交通事故との因果関係を認めることは困難です。
仮に、自賠責保険が因果関係を認めたとしても(あり得ませんが)腰痛に対する神経学的テストがされていませんので、腰痛について12級の認定をすることも出来ません。14級の認定も困難です。

(3)腰痛の証拠がないときの不都合

自賠責保険が腰痛で14級の認定をせず、非該当の判断をすると、裁判所もその自賠責保険の認定をそのまま無条件に 追認する傾向が極めて強いという悲しい現状があります。そうすると、被害者サイドからすると、膝とは別に腰にも独立別個の後遺障害があって辛い思いをして いるのだから、せめて後遺障害慰謝料の増額だけでも請求しようとしても、裁判所から、腰痛の後遺障害を認定する証拠がないとの理由で、あっさり否定される 結果となります。

(4)医師が腰痛症状を診断書に記載しない理由

このようなことが起こるのは、そもそも医師は自賠責保険の後遺障害の認定ロジックに精通していないこと、また、医 師からすれば、下肢に後遺障害を残したときに腰痛が発症するのはあまりに当たり前のことだ、そして所詮生きるか死ぬかの問題でもない、とにもかくにも主症 状であった膝関節の骨折に関しては出来る限りの改善効果を得ることが出来た、だから、医師としての使命は全うした、と考えているからと思われます。
医師としては、それで満足かも知れませんが、交通事故の被害者としてはたまったものではありません。

 

(5)『交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則』鉄則4〜鉄則6の実践

交通事故で下肢に重篤な後遺障害を残した被害者の方は、以上の自賠責保険の後遺障害の認定ロジックと主治医の意識と臨床の実態を踏まえ、腰痛についても『交通事故被害・泣き寝入りしないための7つの鉄則』の鉄則4〜鉄則6を実践されることをアドバイスします。

 

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