後遺障害

自賠責保険における被害者請求の有利性と裏技

自賠責保険に対する請求手続

自賠責保険に対し、傷害保険金や後遺障害保険金を請求する手続として

 

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加害者請求

加害者が被害者に賠償金を支払った後、加害者が自賠責保険に対し請求する方法

2

被害者請求

被害者が直接自賠責保険に対し請求する方法

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一括払制度(任意一括)

加害者の加入している任意保険会社が被害者に対して賠償金を支払った後、任意保険会社が自賠責保険に対して請求する方法

 

の3種類あります。
交通事故の大半は、任意一括払い制度で処理されています。被害者は面倒な手続から開放され、治療に専念出来るなど何かと便宜だからです。交通事故の場合は、任意一括方式がもはや常識となっており、社会に完全に定着しています。しかし、例外的に、被害者請求をせざるを得ない場合や、被害者請求による方が遥かに有利な場合があります。以下、それぞれにつき述べます。

 

被害者請求をせざるを得ない場合(過失割合&因果関係)

被害者側の過失割合が5割を超えているなど、その過失割合が多いときや、事故前からの既往症があって事故後の症状の主因は事故ではなく既往症にある疑いが濃厚など、事故との因果関係について疑義あるケースについては、被害者請求にせざるを得ない場合があります。なぜなら、このような場合、任意保険会社は、保険金の払い過ぎを防止するために、任意一括対応をしないからです。

 

もっとも、このような場合でも、被害者請求により自賠責保険金を得ることは可能です。

 

(1)被害者の過失割合が多いケース

自賠責保険等においても裁判所と同様に過失相殺減額がされますが、自賠責保険等における過失相殺減額は裁判所 の認定する過失相殺のような厳密な運用が行われているわけではありません。被害者救済の見地から、裁判所が認定する過失相殺より被害者に有利な減額割合で 重過失減額を行う取扱いをしています。そもそも支給される保険金額が低いからです。

 

例えば、被害者の過失割合が7割未満であれば、保険金の満額が支払われます。また、死亡や後遺障害の事例では、被害者の過失割合が7割の場合は2割減額、8割の場合は3割減額、9割の場合は5割減額の保険金が支払われる制度になっています。

(2)因果関係に疑義のあるケース

このようなケースでも裁判所の認定のように厳密な認定をすることなく一定の限度ですが保険金を支払う取扱いをしています。

 

被害者請求による方が有利な場合

後遺障害の認定が微妙なケース

見えにくい障害と呼ばれる、画像所見の乏しい高次脳機能障害、脊髄不全損傷、外傷にともなう頸椎捻挫や腰椎捻挫等の各種神経症状、RSDなど、自賠責保険の後遺障害の認定が微妙と予測されるケースで す。例えば、高次脳機能障害などその後遺障害の認定に困難を伴うケースでは、適正な後遺障害の認定を受けるためには、自賠責保険が事前に用意している定型 書式を提出するだけでは足りず、介護者や職場の同僚等の詳細な陳述書、症状経過の時系列表、弁護士や医師の意見書を添付して提出する必要があります。

 

ところが、事前認定手続といって任意保険会社に後遺 障害の認定手続を依頼したときは、任意保険会社は、そのような面倒な作業はしませんし、する義務もありません。規定どおりの定型書式を自賠責保険に提出し て、それで終了です。これでは適正な後遺障害認定を期待することは出来ません。被害者の自助努力が要求されるところです。

 

このことは、高次脳機能障害に限らず、神経症状にかかる後遺障害など、その認定が必ずしも容易でない後遺障害 のケースに当てはまります。従って、後遺障害診断書が完璧で、必要かつ十分な他覚所見等の医証が具備されているというような、ほとんど無い稀なケース以外 は、被害者請求にて後遺障害認定を受けることが賢明と思われます。

 

2 被害者が経済的に困窮しているケース

後遺障害が認定されることが予想される場合で、被害者が経済的に困窮しているケースです。

 

このような場合、保険会社の事前認定手続によって後遺障害の認定がされた場合、後遺障害部分の自賠責保険金が 被害者に直ちに支給されるわけではありません。通常、示談して初めて最終的に賠償金を得ることになります。そうすると、納得のいかない賠償金が呈示された 場合であっても背に腹は変えられないということで、しぶしぶ示談せざるを得ないことにもなりかねません。

 

これに対し、被害者請求手続で後遺障害の認定を受けたときは、後遺障害部分の自賠責保険金を直ちに得ることが 出来ます。14級では75万円、12級では224万円、10級では461万円、8級以上になると1000万円以上が直ちに支給されます。これで急場は凌げ ますので、あとはじっくり納得がいくまで示談交渉するなり、又は裁判するなりして、悔いの残らない方法で解決することが出来るようになります。

 

自賠責保険における被害者請求の裏技

骨盤や脊柱の変形・奇形障害、上肢・下肢・手指、足指の欠損障害や変形・奇形障害、下肢の短縮障害、醜状障害など、そのような内容 の後遺障害があることが明らかであって、自賠責保険から容易に後遺障害の認定がされる場合は、事前請求手続(保険会社任せ)で後遺障害の等級認定を得て、 認定された後に直ちに被害者請求手続に切り換える。


骨折に伴う骨盤や脊柱の変形・奇形障害、上肢・下肢・手指、足指の欠損障害や変形・奇形障害、下肢の短縮障害、醜 状障害などの後遺障害の類型は、そのような内容の後遺障害があることが明らかであって、その立証につき格別の注意が必要とされるわけではありません。誰が 手続をしても同じ後遺障害の認定結果が得られます。

 

ですから、被害者請求手続によらなければ不利な認定がされるという事情はありません。にもかかわらず、このような場合でも被 害者請求するとなれば、請求書の他に、レントゲン写真を病院から取り寄せたりしなければならないなど手間隙がかかるばかりか、病院によっては、1枚あたり 2000円程度のコピー代を請求される場合があります。後遺障害の認定には、通常、最低でも10枚程度のレントゲン写真が必要となりますからその負担額は 決して少なくはありません。


たしかに、被害者請求手続よっても、請求書に「必要な書類や画像は加害者側の保険会社からお取り付け下さい」と付 記すること等によって煩雑な手続から解放される場合もあります。しかしながら、請求それ自体が被害者自身の名義でなされているため、調査事務所としては被 害者自身に各種の問い合わせをせざるを得ません。その場合、素人の被害者に代理人弁護士がいない場合は、調査事務所の問い合わせに対して迅速かつ的確な対 応が出来ない、そもそも調査事務所の言っている専門用語の意味がわからない等の限界があります。

そこで、まず、相手方保険会社を通じて事前認定手続をしてもらい、手続の煩雑性から完全に免れる方法を選択します。そして、後遺障害の認定された後は、直ちに、被害者請求手続に切り換えます。

 

この方法による場合は、自賠責保険に請求書を提出するだけで、後遺障害部分の保険金が直ちに支給されます。簡単な手続で直ちに自賠責保険が支給される点で極めて有用です

 

ご注意

このような裏技が有用なのは、あくまで、誰の目から見ても後遺障害の存在と内容が明らかであって、自賠責保険から容易に後遺障害の等級認定がされる部類の後遺障害のケースに限定されます。

 

見えにくい障害と呼ばれる、画像所見の乏しい高次脳機能障害、脊髄不全損傷、外傷にともなう頸椎捻挫や腰椎捻挫等の各種神経症状、RSDなど、自賠責保険の後遺障害の認定が微妙と予測されるケースには妥当しません。このような場合は、交通外傷に精通している弁護士等のアドバイスを得て、各種の証拠資料を入手したうえで被害者請求手続による必要があります。

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