解決実績

美容院アシスタント(30) / 9級 非器質性精神障害

非器質性精神障害 9級

加害者側主張金額 2107万6530円
UPした金額 2995万2815円
解決した金額 5102万9345円

UP率2.5

解決タイプ
大阪高等裁判所
属性
美容院アシスタント(30)
等級主な傷病
非器質性精神障害 9級
争点
事故との因果関係等
カテゴリ
その他

自動車保険ジャーナルに掲載された穂高のコメント

 

※業界向けの記事のため、やや専門的で難解かもしれません。

 

2審からの受任と方針

(1) 当事務所が本件事件を受任したのは、2審からでした。事故から約10年が経過していました。被害者のご家族は、被害者本人の人格が荒廃し、約1年近く精神病 院の閉鎖病棟に拘禁され、いつ退院できるのか目処が立たない現状であるのに、1審が、事故と現在の精神障害との因果関係を全否定し、後遺障害として14級程度の頸椎症状だけしか認めなかったことに強い不満を感じておられました。

 

(2) 1審を担当された代理人は、脳外傷による高次脳機能障害と脳脊髄減少症等を主張されていました。しかし、脳脊髄減少症については、起立性頭痛が推認できる証 拠が皆無であったため、2審ではその主張はしないことにしました。これに対し、脳外傷による高次脳機能障害の主張を2審でも維持するかについては、かなり微妙な判断が要求されました。

 

(3) 本件のようにMRI画像で脳損傷の所見がないのに脳外傷による高次脳機能障害を主張する場合、受傷直後にゼネレリの頭部外傷の分類(1984)での瀰漫性軸 索損傷と評価できる程度の意識障害(6時間以上の意識消失)があったか否かが事実上の争点とされる場合が多いのですが、本件ではそのような重篤な意識障害がないことは証拠上明らかでした。そればかりか、WHOの軽度外傷性脳損傷の診断基準(2004)であるGCS(グラスゴー・コーマ・スケール)13点〜 15点の要件を満たす程度の意識障害があったか否かも証拠からは判然としていませんでした。

 

(4) さらに、事故から2週間程度経過した入院期間中に記憶障害等の症状が顕現した後は、症状がほぼ直線的に悪化し、事故から半年以内で発語障害、失行、妄想、失 語、知能低下を来し人格が荒廃しているという症状経過をみても、脳外傷による高次脳障害だけで説明するのは困難との印象でした。

 

(5) 他方で、被害者は、①事故による受傷として後頭部挫傷皮下血腫と診断されていることから、事故当時にACRM(アメリカ・リハビリテーション医学協会)の軽 度外傷脳損傷の診断基準(1993)である「意識混濁」程度はあったと推認されたこと、②また、事故後1か月程度経過した頃から痙性麻痺、振戦、右半身感覚鈍麻、咽頭部の不快感等の脳神経の損傷を疑う症状が顕現していたことから、瀰漫性軸索損傷か否かはともかく、瀰漫性脳損傷の可能性は全くないと断定することも出来ませんでした。

 

(6) また、1審が、事故後、被害者に認知機能障害や人格情動障害が生じたことについては当時者間に争いがないのに、これらの症状は脳損傷による高次脳機能障害で はないとの理由だけで事故による後遺障害を否定し、非器質性の精神障害と事故との因果関係の有無については何ら検討を加えていない点について、控訴審の判断を仰ぐ必要性があると判断しました。

 

2審での主張と判断

(1) そこで、当事務所は、①当面は、主位的請求として、脳外傷による高次脳機能障害に罹患したところ世間や医療機関の無理解から非器性の精神障害が合併し症状を 悪化させたもの、と主張するが、②時機を見て、予備的主張として、非器質性の精神障害だけを主張するとの方針を立てました。

 

(2) 2審は、被害者に瀰漫性軸索損傷を認めるに足りる証拠はないとして脳損傷による高次脳機能障害を否定し、非器質性の精神障害として9級相当の後遺障害を残したものと認定し、労働能力喪失期間としては10年としました。

 

(3) 2審は、表現上は素因減額を否定していますが、後遺障害慰謝料として12級相当の280万円程度の認定に止めていること、休業期間も短縮認定していることから、実質上素因減額の判断をしたものと推察されます。

 

最後に

被害者は、事故後10年間にわたり、多くの医療機関を受診しました。しかし、どの医療機関も丁寧な脳神経学的検査をすることなく、外傷性神経症(含む詐病)、解離性障害、転換性障害、うつ病、統合失調症、脳外傷による高次脳機能障害、その他印象レベルを含めて実にバラバラな診断をしていました。中には、PETで脳血流の低下が所見されないのに、重度のうつ病や統合失調症と診断している酷い医療機関がありました。少なくとも記録からは、被害者と真摯に向き合い十分な診療を尽くした形跡がありませんでした。
現在、被害者の人格荒廃は著しく、未だに社会復帰出来そうにありません。従来から指摘されているように、医療機関による適切な診療が切に望まれるところです。これが救済の出発点であると再認識させられた事例です。