解決実績

嘱託社員(43) 5級2号(併合4級) 高次脳機能障害

高次脳機能障害 5級2号(併合4級)

加害者側主張金額 1485万6519円
UPした金額 1億3845万4814円
解決した金額 1億5331万1333円

UP率10.3

解決タイプ
京都地方裁判所
属性
嘱託社員(43)
等級主な傷病
高次脳機能障害 5級2号(併合4級)
争点
逸失利益・過失割合
カテゴリ
脳・脊髄その他の神経症状

事案の概要

平成14年2月、当時43歳の男性会社員(但し試用期間中の嘱託社員)が横断歩道内でバスに跳ねられ脳挫傷等で高次脳機能障害となりました。入院1カ月、通院1年半で症状固定となり自賠責保険から高次脳機能障害5級(他に味覚の喪失等で併合4級)の認定を受けました。

 

他方で、被害者は、予後に関する適切な主治医の指導がないまま、そして認知リハビリの機会も与えられることがないまま、事故から僅か3カ月で職場復帰した結果(但し隔日勤務)、職場内で数多くのトラブルを発生させ、周囲の無理解もあって結局退職を余儀なくされ、退職後は引き籠もり症候群等で益々症状が悪化してしまい、社会復帰が極めて困難な状態となりました。

 

判決の内容

以上のように、被害者は自賠責保険では高次脳機能障害では5級の認定を受けるに止まっていました。しかし、当事務所(弁護士法人 穂高)において、裁判所に対し、自賠責保険の前記認定にとらわれず、高次脳機能障害被害の本質に即した被害の深刻性の主張と立証をしたところ、以下のとおりの判決が下されました。

 

1 労働能力喪失割合は85%(自賠では79%、加害者の主張は35%)
2 妻固有の慰謝料として金200万円
3 将来の介助費用として生涯に渡り日額2500円

 

判決内容の画期性

裁判所が自賠責保険の追認機関と化してしまっている傾向にあることは、随所で指摘されていることです。従いまして、本件のように自賠責保険が高次脳機能障害につき5級の認定をしたときは、裁判所も、(1)労働能力喪失割合は自賠認定のとおり79%(2)近親者の慰謝料は否定(裁判所が死亡以外の案件につき近親者に固有の慰謝料を認めるのは、よほど事情のない限り自賠責保険で後遺障害1級の認定がされたときに限定される傾向にあります)、(3)将来の介助費用も否定、という判断をします。

 

しかし、この度の判決は、前記「裁判の常識(?)」を完全に覆しました。これまで、高次脳機能障害5級で自賠と異なる判断をした裁判例は、下記のとおり2件しか見当たりませんでした(但し、高次脳機能障害5級の他さらに他の重篤な後遺障害があったために、もともと自賠責保険で併合3級(=労働能力喪失率100%)以上の認定がされていた事例についての裁判例は除いています)。

 

判決 属性 将来の介助費 近親者慰謝料
横浜地裁(平成15年7月31日) 16歳男子高校生 日額3000円 100万円
東京地裁(平成16年9月22日) 29歳男子会社員 日額2000円 請求せず
今回(平成17年12月15日) 43歳男子会社員 日額2500円 200万円

 

勝因

このように画期的な判決を得ることが出来た理由は多岐に渡りますが、その主なものを以下に指摘します。

 

1 妻の克明な日誌

被害者の奥さんは、事故発生直後から当事務所に依頼されるに至るまで、実に克明にメモされた日誌を作成しておられました。当事者がリアルタイムでその都度書き残しておいたメモの類は、証拠法上高い証明力が認められます。奥さんの日誌によって、主治医のカルテには記載されていない症状、カルテ上の記載とは異なる被害者の症状、主治医から適切な指導がなかった事実、職場で孤立し数多くのトラブルを発生させている事実を具体的かつ詳細に主張し立証することが出来ました。奥さんの克明な日誌がなければ、我々は、被害者側の曖昧なうろ覚えの記憶だけを頼りに戦わざるを得なくなり、立証は愚か、まともな主張さえ出来なかったと思われます。

 

2 協力医師の真摯な協力

奥さんのメモ・日誌は、それがいかに克明で詳細であっても、医学的な証明文書にはなりません。裁判で自賠の判断とは異なる後遺障害の損害主張をするには、医学的な証明資料が必要となります。その証明資料とは、具体的には医師の意見書です。当事務所は、高次脳機能障害とその患者に深い見識と理解があり、各高次脳機能障害患者の支援団体から講演の依頼を多数受けておられる脳神経外科の医師と、毎月1回の割合で脳外傷の勉強会をしております。

 

その脳神経外科医の協力を得て、被害者を4カ月間に渡って認知リハビリ等を通じて経過観察していただき、その診察結果に基づき、労働能力喪失割合と介助の必要性についての意見書を作成して頂き、裁判所に提出しました。その意見書は本文だけで15ページを超える詳細かつ緻密なものでした。

 

高次脳機能障害の病態と就労の困難性やご家族の精神的肉体的労苦について深い知見のある専門医が少ないだけに、協力医師の詳細の意見書がなければ、労働能力喪失割合と介助の必要性について医学的な証明をすることは困難な状態でした。

 

3 高次脳機能障害の被害の本質を踏まえた主張と立証

高次脳機能障害の裁判で、加害者側からよく主張されるのは、『被害者の知能に格別の問題がない。パソコンが出来る。メールが出来る。ADLが介助なくして 出来る。だから、介助はおよそ不要で、労働能力も格別の低減がなく、自賠責保険の認定より低く認定すべきである。』との主張です。本件事案においても加害 者から同旨の主張が展開され、被害者の等級は9級(労働能力の喪失率35%)程度に過ぎない、だから支援・介助は不要、妻に固有の慰謝料も認められるはず がない、との主張がされました。しかし、上記の加害者側の主張は、高次脳機能障害の被害の本質からはかけ離れた内容になっています。

 

高次脳機能障害の被害の本質は、第1に、安定継続した就労が極めて困難な状態にあることです。障害者は、対人折衝能力ないし対社会的適応能力が欠如しているか低下しています。その能力に大きな問題があるのに、外見上は健常人と変わりません。 ですから脳に障害を残している者であることが外見からはわかり難く、周囲の理解が得られません。ですから「変人」「自己中心主義」「協調性がない」「物覚 えが悪い」「やる気がない」「サボり」「直ぐにキレる」「要するに使えない人材」などと評価され、職場で軋轢を生んでしまい、それを深刻化させ結局、退職 を余儀なくされます。再就職できても同じことの繰り返しです。安定継続した就労は著しく困難な状態です。

 

第2は、家庭内おいて、ご家族がトラブル回避の為に四六時中、看視などで高度の緊張を強いられ、深刻な心労に陥ります。そのことについて周囲の理解が全く得られていません。以上が被害の本質です。

 

我々は、以上の被害の本質に焦点をあてることにしました。膨大な数の関係各資料を裁判所に提出し、高次脳機能障害患者に対する医療体制の不備、社会保障制度の不備、自賠責保険の後遺障害認定制度の不備、周囲の無理解その他から、依頼者を含む高次脳機能障 害患者とその家族が、置き去りにされ、途方に暮れながら自助努力を強いられているが、解決の糸口さえ見つけられないで放置されている被害の実態を立証しました。そして、救済の最後の砦である裁判所において被害者とその家族に対する真の救済が図られるべきであることを主張の骨子としました。

 

まとめ

結局この裁判では、『穂高の交通事故被害解決例』のコンテンツで紹介させて頂いているとおり、加害者の裁判上の主張額が遅延損害金も含めて約1485万円程度だったのに対し、約1億5331万円で解決することが出来ました。アップした金額は1億3845万円であり、アップ率は10.3倍でした。

 

裁判は証拠です。いくら真実の主張をしたところで、その主張が真実であることを証明する証拠がなければ、その主張内容が裁判上認められることはありません。高次脳機能障害患者さんのご家族の方は、最低限、本件事案の奥さんのように、日々、克明なメモを取っておくように心がけて下さい。


そして、主治医の診療に疑問を感じたときは、出来る限り早く高次脳機能障害に詳しい方に相談され、信頼出来る専門医の治療を受けて下さい。

 

前記3つの裁判例のとおり、まだまだ少数勢力に止まっているとはいえ、裁判所も高次脳機能障害の被害の実態に対する理解を深めつつあります。諦めないで下さい。少しでも完全な被害回復に近づくことが出来ますよう、心よりお祈り申し上げます。