後遺障害

RSD被害者の方へ

第2 RSDの概要と特質

1 RSDの病態

交感神経の異常な反射亢進を基盤とする疼痛(痛み)、腫脹(腫れ)、関節拘縮(関節が固まる)、皮膚変色などを主徴とする病態とされています。
かなり大まかな定義ですが、統一的な見解がないため、どうしても最大公約数的な表現とならざるを得ないようです(これとは別に『感覚異常、自律神経障害、運動障害が3主徴である』と、もっと抽象的な定義をする見解もあります)。

 

※CRPS

近時、交感神経がさほど関与していない持続性の疼痛があることが判明してきていることから、RSDは呼称として適当ではなく、CRPS(複合性局所疼痛症 候群)I型と称すべきである、と提唱する説が有力化しつつあります。穂高としては、その見解の方が正しいと思われますが、本稿では、現時点での臨床の現場 や裁判実務での名称の定着率から、あえてRSDと言います。

 

2 カウザルキーとの関係

広義のRSDには、カウザルキーを含み、

 

  • 明確な末梢神経損傷のない場合が、狭義のRSD(CRPS− I型)
  • 明確な末梢神経損傷のある場合が、カウザルキー(CRPS−II型)

 

とされています。

 

※カウザルキー

カウザルキーは、以上のとおり抹消神経の損傷がはっきりしている場合で、1.発症までの期間が短い、2.灼熱痛(アロディニア)がある、3.損傷された神経支配領域に合致した痛みが主症状となっている、4.浮腫・腫脹が少ない、点に特徴があるとされています。

 

3 患者数

日本での患者数は5万人と推察されており、女性に多く(男性の2〜3倍)40〜50歳代に好発するとされていますが、小児例(特に9歳〜11歳)も稀ではないと報告されています。

 

4 RSDの4主徴

RSDの4主徴としては、先の定義で指摘しましたように

 

  1. 強烈な疼痛(痛み)
  2. 腫脹(腫れ)
  3. 関節拘縮(関節が固まる)
  4. 皮膚変色

が指摘されるのが通常です。

他に、末梢循環不全、発汗異常、骨萎縮、筋萎縮、手掌腱膜炎などの症状が顕現することが稀ではないと報告されています。
さらには、運動障害(筋力低下、健反射亢進、ネグレクト様症状=全力で集中しないと手指が動かせない等)、知覚障害(知覚減退、痛覚鈍麻、痛覚過敏=刺激を中断した後も疼痛が長時間残存)、筋筋膜性機能障害(四肢近位部の筋に結節状硬結とその部位で発痛点がある)、発毛障害等が指摘されることもあります。臨床像もバラツキがあって確立された診断基準がない所以です。
上記のうち、後に説明しますように、自賠責保険は、先の4主徴にとらわれず、独自に1.関節拘縮(関節が固まる)、2.骨の萎縮、3.皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)がいずれも慢性期に健側と比較して明らかな場合に限定してRSDの認定しています。そして等級認定の資料として、主治医に対し、上記の他、感覚異常の有無と程度、発汗異常の有無と程度、筋萎縮の有無と程度を照会し、その回答結果も認定の資料としています。

 

5 地獄の痛み

疼痛の程度は強烈で、その内容は、体の奥に「焼け火箸を刺し込まれるような」「錐をもみ込まれるような」痛みを覚えるという表現がされるように、身体深部に灼熱痛を覚えるとされています。           
また、異痛症と言って、洗面・入浴時や、皮膚に衣服が触れたり風が当たると激痛(立っていられない、うずくまってしまう強烈な痛み)が走る患者さんが多いと言われています。
そのような痛みを足に覚える患者さんは、車椅子に座って毛布をおおった足を、板切れなどで水平に保ち、足先に物が当たらないよう前方を凝視しているそうです。その姿は極めて特異で、臨床医は一度見たら忘れることが出来ないそうです。RSDが地獄の病気と呼ばれる所以です。

 

 

6 素因減額が争点となる

RSDの最大の特徴は、原因となった受傷の内容と不釣り合いな強烈な自発痛が、本来であれば治癒しているか遅くとも軽快していくはずの時期に、神経支配領域を無視して発症する点にあるとされています。
すなわち、RSDの受傷機転としては、骨折にとどまらず、捻挫、打撲、切創、腰部椎間板ヘルニア症などが指摘されていますが、例えば、軽い接触事故から打撲程度の受傷を負ったにすぎない場合であっても、数週間経過してから強烈な痛みが神経支配領域を無視して生じ、RSDになることがあります。
すなわち、そのような軽微な事故から、そのような重篤な症状が、そのような時期に発生するのはおよそ通常とは言えない、と判断せざるを得ないケースなのです。これがRSDの特質です。
そうなると、素因減額が問題とならざるを得ず、裁判になると必ず加害者側から素因減額の主張がされ、実際、ほとんどの裁判例において素因減額がされています。

 

※ 素因減額については、別の機会に詳説します。

 

7 症状経過

RSDは、既に説明しましたように、その臨床像が固まっているわけではありませんが、その症状経過(含む他覚所見)については、概ね以下のとおり説明されています(※1)。

 

第1期(急性期)
最初の3ヶ月
第2期(亜急性期)
3〜9ヶ月
第3期(慢性期)
9ヶ月〜2年
疼痛
灼熱痛 疼痛増大、運動痛 疼痛低下(数年持続)
腫脹
柔らかい腫脹 硬性浮腫 関節肥厚残存
関節拘縮
軽度 中等度 高度
皮膚変色
赤色 チアノーゼ(赤黒)→蒼白 蒼白(干からび)
発汗
亢進(過多) 後半は乾燥 乾燥
皮膚温
上昇 後半は低下 低下
骨萎縮
3週目から出現(※2) 著明、均一化 進行、広範囲(※3)
その他
爪の変性(萎縮) 指の先細

 

(注)
※1 個人差が激しい
※2 手根骨、足根骨、関節周囲に斑点上の骨透過性の出現
※3 患肢全体にすりガラス様の陰影

 

8 何科を受診すればよいか

受診科目は、麻酔科や神経内科(ペインクリニック)、整形外科となります(間違っても心療内科や精神科に行ってはなりません。「気のせいだ」で片づけられるのがオチです)。
診察対象が広い整形外科に比べると、麻酔科ないし神経内科(ペインクリニック)の医師の方がRSDに対する知見が深い場合が多いことが指摘されているようです。
もっとも、医師が本当のRSDの症例を経験することは少なく、「RSD患者を常時数人診ていたら、RSDの世界的権威になる」とささやかれているようです。それほど症例が少なく、発生率も2000人に1人(0.05%)と報告する例もあります。

 

9 診断基準

個人差が激しい、症状の発症時期もバラツキも多い、すべての症状が網羅的に顕現するわけでもない、むしろ一部の症状が他に突出して顕現しているケースの方が多い、等の報告も多数あるように、確立された診断基準があるわけではありません。
最近では、ギボンズの診断基準(ギボンズRSDスコア表)が広く用いられつつあるようですが、他方で、診断基準として厳し過ぎるのではないか、との意見も有力です。

 

 

【参考】

ギボンズRSDスコア表

  1. 痛覚異常・敏感
  2. 灼熱痛
  3. 浮腫
  4. 皮膚色や毛の異常(蒼白・光沢喪失・脱毛)
  5. 発汗異常(過多・減少)
  6. 皮膚温度の異常(低下・上昇)
  7. XP上の骨萎縮像(ズディック骨萎縮)
  8. 血管運動障害(レイノー現象・冷感・紅潮)
  9. 骨シンチグラフィーの異常所見(集積像)
  10. 交感神経ブロックの有効性

 

以上の各項目毎に、陽性を1点、疑陽性を0.5点、陰性を0点として合計し、

3点未満はRSDではない、
3点〜4.5点以下はRSDの可能性あり、
5点以上はRSDの可能性が高い、

と評価する。

 

 

 

10 どんな治療方法があるか

治療法として、星状神経節ブロック、交感神経遮断剤、末梢神経幹ブロック、交感神経切除術、ステロイド、通電法、温冷交代浴などがあげられていますが、いずれも対処療法であり、決め手となる治療法はなく、難治性の疾患とされています。
臨床で、主治医が「少し治りが悪いかなあ」と感じると、なんでもかんでもRSDとして片づけるRSD診断乱発の実態があることは、冒頭で指摘したとおりです。
しかし、他方で、初期に放っておくと本当のRSDになってしまうこともあることから、RSDの疑いが生じたときは、過剰濃厚診療気味でもよいから、とにかく初期治療を徹底的にすることが良いとされ、現に早期治癒など治療成績も良いようです。

 

11 未だに謎の多いRSDの発生機序

治療法が確立されていないのは、病態が多岐にわたることも理由のひとつですが、その発生原因がよくわかっていないことが主な原因です。
RSDの発生機序として、現在まで様々な学説が乱立しているようですが、おおよそ以下の点では共通認識が得られているようです。
すなわち、外傷を受けて、出血したり、腫れたりした場合、余分な出血を止めたり、腫脹を防ぐため、四肢の血管が収縮します。
それは正常な交感神経反射が働いているからです。そして外傷が治癒するとそのような反射活動は消失するようになっています。
ところが、RSDの患者さんは、この反射活動が全然消失せず、逆にどんどん活発化し、それが末梢の組織に強い交感神経の亢進状態(いわば神経が異常に興奮・緊張し続け全く鎮静化しない状態)を継続させます。
そうすると血管がぎゅっと締まったままの状態となって組織が虚血状態となり、循環不全となって浮腫が起きたりして、それがより強い持続的な痛みを発生させる(ただの電線だった神経が痛みの発電機に化ける)という魔の悪循環スパイラルの状態に陥ってRSDとなると説明されています。
ただ、何故、交感神経が亢進し続けてしまうのかについては、その原因が未だにわかっていません。

 

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