お知らせ

神経心理学テストを体験しました

今回、体験できたのは、

 

  • WAIS−R(ウェクスラー成人知能テスト)
  • WMS−R(ウェクスラー記憶テスト)
  • 日本版RBMT(日本版リバーミード行動記憶検査)
  • BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)

 

でした。

当事務所は、これまで月に数回のペースで医師や認知リハビリの各スタッフ、職業センターの職員等を交えた脳外傷による高次脳機能障害の認知リハビリに関する勉強会に参加してきました。その中で、各種の神経心理学テストを実際に体験してみることの必要性を痛感していました。
この度、やっとその機会に恵まれました。まるまる2日間にわたって、ベテランの専門家の指導の下で、学生さんや新人の言語聴覚士さん、臨床心理士さんらと ともに、被験者となってテストを受けたり、検査者としてマニュアルに従って出題したり、採点したりしました。
今回の体験で、公表されている専門書にはどこにも記載されていない多くの貴重な情報を得ることが出来ました。当事務所のホームページに掲載している高次脳機能障害の記載内容も改訂する必要を感じていますが、年内にもう一度他のテストも体験出来ることから、全体報告は後日することにして、今回は速報版として ポイントだけ簡単な中間報告にとどめます。

 

1 テストのプロがいない

言語聴覚士や作業療法士、臨床心理士といったいわゆる認知リハビリスタッフ(セラピスト)は、検査の仕方や評価方法をそもそも学ぶ場がなく、被験者になった経験もほとんどない。その結果、採点評価に習熟しておらず検査者によって採点評価に差異が生じる。医師は、被験 者体験はもとより、神経心理学テストの実体をほとんど知らずに検査をオーダーをしている。

 

2 いずれのテストも、実生活での問題行動がテスト結果に反映されていない

その原因として、設題それ自体が日常生活の問題点を浮き彫りにする性質のものではない、採点評価基準があいまいで的確でない、採点評価するプロがおらず検査者によって採点評価に差異が出る。

 

3 WAIS−R(ウェクスラー成人知能テスト)

(1) そもそも時間がかかり過ぎる。臨床で使用するのは実際的でない

このテストはもともと健常者用に作られています。弁護士も実際、受験してみてヘトヘトになりました。障害者には負担が重過ぎます。このテストは、実際には障害者の症状把握のためというより、医師が学会で発表するデーターとして利用されることの方が多いようです。

 

(2) 問題や採点評価マニュアルに疑問が残る記載が少なくない

例えば、「税金は何のために払うのか」との設題に、「国が公共の福祉を実現するための財源担保のため」と回答しま した。完全回答のはずです。ところが、最高得点が2点のところ、1点の評価しか与えられませんでした。採点評価マニュアル本に、そのような回答例が掲載さ れておらず、検査者もそのマニュアル本の記載に疑問を抱きつつも、評価の統一性・客観性の担保のためには機械的に判断をせざるを得ないと考えたからです。

 

(3) 動作性テストは成人男性には不利な設題が多い

動作性テストとして、積木模様テストと言って、設題の絵と同じ模様の積み木をいかに素早く組み立てられるかという テストがあります。幼児がよく遊ぶパズルに似たテストです。作業中に『神経衰弱』というトランプゲームを想起しました。子供や女性は強く、麻雀とかの戦略 性のあるゲームを好む成人男性は苦手にしているゲームです。ところが、解説書にはアメリカでも日本でも男女に有意差はないと解説されていました。本当か? と感じました。

 

4 WMS−R(ウェクスラー記憶テスト)

このテストは、これまで指摘したのと同じ問題点があり、健常者のテスト用に作られたものであり時間がかかり過ぎ る、障害者には負担が大きい、設題それ自体が日常生活の問題点を浮き彫りにする性質のものではない、採点評価基準があいまいで的確でない、採点評価するプ ロがおらず検査者によって採点評価に差異が出る、その結果、実生活での問題行動がテスト結果に反映されていない。

 

5 日本版RBMT(日本版リバーミード行動記憶検査)

このテストは、ウェクスラーシリーズと異なり、約束ごとを想起して実行できるか、人の名前と顔を覚えているか等、 設題それ自体が日常生活や社会生活を営むにあたって通常出くわす場面に即した内容になっています。その点では実践的でした。しかし、設題それ自体が簡単過 ぎ、しかも採点基準も甘く設定されていることから、日常生活で深刻な問題行動がある人でも、正常かそれほど酷くないと判断される傾向にあることが指摘され ているようです

 

6 BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)

これも、実際体験してみて、速解クイズゲームに似たところが多く、どれほど障害者の実際の問題行動が敏感に反映さ れるのか疑問が残りました。認知リハビリの臨床でも、プランニングに関する検査項目は、まずまず障害者の実際の問題行動を敏感に捉えていているが、それ以 外の項目については「?」との印象を持ってるようです。

 

6 まとめ

いずれのテストも、その点数評価は、障害者の実生活での問題行動が敏感に反映されているとは言い難い。それにもかかわらず、テストの評価点数が一人歩きしてしまっている傾向が強い。これは危険。
重要なのは、認知リハビリの場面での障害者の行動観察(勝手にリハビリ ルームを出てしまう、平気でたばこを吸う、人によって露骨に態度を変える、etc)とか、検査用紙の観察欄に、テスト時の被験者の様子を(投げやり、ヒン トを与えても無視する、逆切れする、文句が多い、何度言ってもルールを守らないetc)詳細に生の事実を記載すること。

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