交通事故被害で泣き寝入りしないための7つの鉄則:後遺障害認定の落とし穴~他覚所見と因果関係~

後遺障害認定の落とし穴~他覚所見と因果関係~

世はネット時代です。調べものをするには随分と便利な時代になりました。しかし、インターネット情報の内容は玉石混淆です。また説明内容は、このホームページによる情報も含めて一般的概説的なものとならざるを得ず、当の被害者にヒットした最良の個別情報を提供することはできません。
不正確なネット情報を軽信されたり、あるいは断片的な情報が未整理のまま、『この情報は自身のケースにも当てはまる』と誤解されている被害者の方が意外なほど多いことに驚かされます。

特に、筋電図テスト等の他覚所見をゲットしたから後遺障害が認定される、認定されないとおかしい、と勘違いされてる「他覚所見一点豪華主義」の被害者の方が最近増えて来られたように思われます。インターネットから各種の情報を得た方ほどその傾向が強いように見受けられます。

たしかに、他覚所見の有無は、後遺障害の適正な賠償を受けるうえで、極めて重要な意味を持つことは事実です。否定はしません。

しかし、他覚所見があっても因果関係が否定され後遺障害の認定がされないことはあります。逆に他覚所見がなくとも裁判上、後遺障害が認定されることもあります。

後遺障害の認定の基本

最も重要なのは、事故と後遺障害との因果関係であり、それが後遺障害認定の基本なのです。基本を踏まえていない主張をしても、適正な後遺障害の認定がされるはずありません。
自賠責保険や裁判所における後遺障害の認定も、基本に忠実に事故と後遺障害との因果関係を最も重視しているのです。

簡単に言うと、自賠責保険も裁判所も、『事故から後遺障害に至るまでの因果の流れ』の自然性を重視しているのです。

他覚所見の有無だけに焦点を当てて、それだけを問題にして後遺障害の認定をしているわけではありません。

自賠責保険が因果関係を重視していることは、前述しました自賠責保険の後遺障害の定義からもご理解頂けると思います。

事故から後遺障害に至るまでの因果の流れ

そのような事故状況なら
そのような受傷をして
そのような症状経過を辿って
そのような後遺症が残ったとしても不思議ではない(あり得る・自然だ)

そして、自賠責保険も裁判所も検討事項として、いくつかの項目を総合的に判断し後遺障害の認定をしているのです。

自賠責保険や裁判所の具体的な検討事項の例

  • 事故態様(追突か、出会い頭か、正面衝突か、など)
  • 車両の損傷の形状・内容・程度
  • 受傷機転(身体がどう動いて、どの部位がどのような衝撃を受けたか)
  • 愁訴、症状、他覚所見(愁訴と各種所見との整合性)
  • 症状の推移(変遷)の自然性
  • 症状固定時期の妥当性
  • その他(オペの内容や経緯、主たる訴え、医師の専門性や傾向)

上記の検討事項記載のとおり、他覚所見は、立証のほんの一部を占めているに過ぎません。
※但し、RSDについては、特異な症状経過を辿ることについては、別の機会に説明します。

他覚所見があっても後遺障害が否定された例

以上の説明で、他覚所見がなくても裁判で判断ファクターから後遺障害が認定されることがあることや、逆に他覚所見があっても事故態様と受傷機転との不整合から因果関係が否定され、後遺障害の認定がされないことがある、ということがご理解頂けたかと思います。

事故態様と受傷機転に着眼しているケースの例

このような軽微な追突事故で、そのような重篤な神経根症が発症するはずがない。他覚所見によって認められる神経根症は事故に因って発症したものとは認定できない。

症状経過に着眼しているケースの例

事故によって脊髄損傷になったというのであれば、麻痺は、事故直後に発症する。事故から数か月経過した段階で麻痺が発症することはない。よって、その麻痺は事故に因って発症したものとは認定できない。

症状経過に着眼しているケースの例

頸椎捻挫は通常3か月以内、遅くとも6か月以内に治癒するか症状が固定する。ところが被害者のケースで は症状は暫時悪化しており、憂鬱症状も発現している。愁訴の内容も時の経過とともに多彩になっており、多数回に渡り転院している。被害者の現にある頑固な 神経症状は、症状の推移として極めて不自然であり、少なくとも事故だけが原因でそのような頑固な神経症状が発症したものとは認定できない。

症状固定時期に着眼しているケースの例

高次脳機能障害の症状固定時期は受傷後1年が目安。それ未満では、今後、症状が軽快していく余地がある。軽快の余地がある以上現時点で後遺障害の認定をすること早計である。

被害者の立証の範囲

交通事故の被害者は、先の一覧表で記載した自賠責保険や裁判所が後遺障害認定の判断ファクターとしている全ての事項について証明する必要があります。

そこで、交通事故被害に遇われた方は、警察任せにせず、医師任せにせず、保険会社任せにせず、鉄則1から鉄則6に基づき立証資料を収集され、上記の裁判所や自賠責保険の判断ファクター項目に即したメモを日々作成され、証拠として残しておくことをアドバイス申し上げます。

たしかに簡単に出来る作業ではありません。受傷内容が重症であればあるほど、作業の期間は長期化しますし作業量も多くなります。しかし、実に皮肉な結果ですが後に高度の後遺障害が残ると予想される方ほど、煩雑であっても、とにかく証拠を絶対に残しておく必要性がますます高くなります。賠償額が高額となり、必然的に裁判とならざるを得ず、裁判上、加害者側より因果関係や賠償額について本気で徹底的に争われるからです。

ゴールまでの問題点

受傷からゴールまで最短でも2年以上はかかります。本人やご家族にとっては辛くて長い戦いです。ご家族の負担は大きく、障害者本人よりも先にご家族の方が経済的にも精神的にも参ってしまい、途中で挫折してしまうことは稀ではありません。

また、生活訓練や職能訓練は医療機関の専門外の領域です。通常の交通外傷のように医療機関だけで解決できる問題ではありません。

そこで、医療ソーシャルワーカー、支援コ?ディネーター、ホームヘルパー、ケースワーカー、カウンセラー、職業指導員、ジョブコーチ、作業所の指導員等の相談・支援が必要となります。

ところが、そのような相談・支援者は、通常、別々の機関(病院、市町村地域包括支援センター、地域福祉協議会、障害者福祉施設、障害者生活支援センター、障害者更生施設、介護サービス事業所、障害児教育関係施設、ハローワーク、障害者職業センター、中途障害者施設作業所など)に所属しており、各々専門も違います。ですから、相互交流・情報交換を蜜にし、いざというときに迅速な連携プレーがとれるスキームがなければ、障害者にとって有為な支援活動が出来ません。

高次脳機能障害自立支援普及事業に基づく自立支援地域ネットワークの登場

そこで、平成18年10月に施行された高次脳機能障害自立支援普及事業に基づき、徐々にですが、各地方及び各地域単位で自立支援地域ネットワークがそれぞれ構築されるようになりました。

それら地域ネットワークの拠点となっているのは、いずれの地域も市町村ではなく、高次脳機能障害の認知リハビリの臨床経験が豊富な病院です。

そのような拠点病院では、医師、セラピスト等が中心となって、他の病院や診療所(クリニック)の医療従事者、福祉課担当の市町村の職員、医療ソーシャルワーカー、ホームヘルパー、ケースワーカー、カウンセラー、ジョブコーチ、当事者・家族の会、作業所の指導員等を交えて、定期あるいは不定期に、情報交換会、勉強会、研修セミナーを開催し、充実した支援に向けて日々研鑽を積んでおられます。そして、その拠点病院となっている担当医師は、神経心理学に精通し、脳病態生理学(脳が病理現象にあるときの身体機能の状態と脳機能の低下をきたす原因を解き明かす医学)にも知見のあるリハビリテーション医であるのが通常です。

高次脳機能障害支援モデル事業 中間報告書について|厚生労働省ホームページ

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/04/h0410-1.html

厚生労働省が平成13年度に実施した「高次脳機能障害支援モデル事業」で拠点病院とした各病院もリハビリテーションに注力してきた病院が掲載されています。

※大学病院は北大病院を除き含まれていません。大学病院は、ごく一部の大学を除いて高次脳機能障害の認知リハビリの臨床経験が豊富とはいえませんし、臨床経験があっても、地域ネットワークにも所属していないのが通常です。

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交通事故被害で泣き寝入りしないための7つの鉄則
はじめに
  • 鉄則1
  • 鉄則2
事故直後の鉄則 ~自身でする事後調査
(警察任せにすると後悔します)~
  • 鉄則3
供述調書にサインする前に
  • 鉄則4
  • 鉄則5
  • 鉄則6
後遺障害の立証の鉄則 ~自身でする症状経過メモ
(医師まかせにすると後悔します)~1
  • 鉄則4
  • 鉄則5
  • 鉄則6
後遺障害の立証の鉄則 ~自身でする症状経過メモ
(医師まかせにすると後悔します)~2
  • 鉄則4
  • 鉄則5
  • 鉄則6
他覚所見を得る方法
  • 鉄則7
被害者請求
後遺障害認定の落とし穴 ~他覚所見と因果関係~