軽度外軽度外傷性脳損傷(mild-TBI)による高次脳機能障害を認める、画期的な判決を獲得しました(大阪高裁・平成21年3月26日判決)
高次脳機能障害 9級
加害者側主張金額 | 447万3387円 |
UPした金額 | 3350万3672円 |
解決した金額 | 3797万7059円 |
UP率約8.5倍
- 解決タイプ
- 大阪高等裁判所
- 属性
- 建設業経営者(51)
- 等級主な傷病
- 高次脳機能障害 9級
- 争点
- 頚椎捻挫(14級)か脳損傷か
- カテゴリ
- 脳・脊髄その他の神経症状
自賠責保険が、MRI画像で脳損傷の所見がないことから脳外傷による高次脳機能障害を否定し、頚部の神経症状(いわゆる頚椎捻挫)で後遺障害等級14級11号と認定したのを、当事務所は、画像上の異常所見がなくとも、事故態様やその症状経過から脳外傷による高次脳機能障害を認めることは十分可能であるとの主張・立証を尽くしたところ、大阪高裁はこれを認め、脳外傷による高次脳機能障害として9級相当の後遺障害を認定しました(大阪高裁・平成21年3月26日判決)
事案の概要
平成14年5月、当時51歳の男性(建設業経営)がワゴン車を運転中、センターラインをオーバーしてきた大型トラックと正面衝突しました。ワゴン車は大破し、被害者は救急搬送されましたが、奇跡的に重傷には至りませんでした。頭部外傷II型(脳震盪)、意識障害レベルは軽度(JCSII−見当識障害が6時間継続した程度)で、1週間で退院となりました。
ところが事故後3週間経過した頃から、傾眠、複視、耳鳴りといった脳損傷を疑う症状の他さらに、注意障害、記憶障害、遂行機能障害、コミュニケーション障害、意欲・発動性の低下、易怒性といった高次脳機能障害を疑う症状が次々に顕現し始め、家庭内ではもちろん仕事でも次々とトラブルを起こすようになりました。
事故前とはすっかり人が変わってしまった夫の様子をみて、妻があれこれと病院を探してきては受診させましたが、いずれの病院でも画像での異常所見はない、脳神経外科としてはすることがない、として門前払いでした。
そのような状態が1年近く続き途方に暮れていたところ、妻がたまたまNHK総合番組で高次脳機能障害特集を見ていたところ、夫と全く同じ症状でありながら、MRI画像上異常がないとして見放され途方に暮れている家族が大勢いることを知りました。
その特集で意見表明していた高次脳機能障害の専門医を尋ね、診察を受けたところ、平成15年5月、脳外傷による高次脳機能障害との確定診断を受け、認知リハビリを 受けることにしました。認知リハビリは5か月間継続されましたが、1.症状が顕現してからリハビリを開始するまでに1年以上経過していたこと、2.リハビ リ開始した当時の年齢が既に52歳に達していたことから、認知機能はわずかに改善傾向を示したものの、結局、高次脳機能障害は根本的に改善されないまま、平成15年9月、症状固定とされました。
自賠責保険の判断
平成15年12月、自賠責保険は、CTやMRI画像で外傷による脳損傷の所見がないとの理由で、脳外傷による高次脳機能障害を否定し、頚部の神経症状(いわゆる頚椎捻挫)で後遺障害等級14級11号と認定しました。
当事務所(弁護士法人穂高)に相談
妻は、もちろん自賠責保険の認定に納得していませんでしたが、だからといって何をどうしていいのかわからないまま無為に1年半が経過したところ、平成17年5月、インターネットで当事務所のことを知り、来所されました。
当事務所の判断
当事務所は、弁護士法人穂高ホームページ(『高次脳機能障害で泣き寝入りしないための10の鉄則』の『第6 軽度脳外傷による(画像所見のない)高次脳機能障害』)でも紹介していますように、かねてから、
- 画像は決め手にならない。
- 画像上の異常所見がなくとも、また、事故当時の意識障害が軽度であっても、
- 事故態様・受傷機転によっては、脳外傷による高次脳機能障害となり得る
との見解に立っていました。
そこで、当事務所は、事故態様・受傷機転に関する資料の取り付けの他、カルテ等の膨大な医療記録を取り付け、特に症状経過につき時間をかけて慎重に検討を重ねたところ、本件については、軽度外傷性脳損傷(mild-TBI)として脳外傷による高次脳機能障害の立証が可能と判断し、平成18年9月、大阪地方裁判所に提訴しました。
大阪地方裁判所の判断(平成19年10月31日判決)
ところが、第一審の大阪地裁は「CT、MRI上脳内損傷の画像所見がみられなかったことをもって、高次脳機能障害が残存していないと断言することはできない」ことを認めつつも、「(画像所見がないことを含む)医学的検査の結果に加え、事故態様、本件事故後の状況」等から脳外傷による高次脳機能障害を認めることはできないとし、非器質性の精神障害を疑う相当な資料がないのに「12級相当の非器質性の精神障害が残存した」と認定しました。
大阪高等裁判所の判断(平成21年3月26日判決)
そこで、直ちに控訴したところ、大阪高裁は
- 判断基準については
「事故による高次脳機能障害が残存するかどうかの判断は、画像所見に基づく医学的検査の結果を一つの要素としつつも、事故態様、本件事故前と本件事故後の状況の比較等を総合的に考慮して判断すべきである。」 - 事故態様については
「(被害者は)本件事故により頭部が極めて大きな打撃を受け、大脳が大きく前後に揺さぶられたと認められる」とし、その他にも「十分に高次脳機能障害の発生機序となり得る」証拠がある。 - 症状経過については
「典型的な高次脳機能障害症状を呈しており、高次脳機能障害と認定しても全く矛盾がない」
「非器質的精神障害の特性とは全く整合していない」
と判断し、脳外傷による高次脳機能障害を認定しました。
勝因
勝因は、何よりも被害者が、高次脳機能障害の認知リハビリの臨床経験豊富な医療機関を受診し、長期にわたって認知リハビリを受けたことにあります。
その医療機関は、今では高次脳機能障害自立支援普及事業・地域ネットワークに所属していますが、そのような医療機関で長期間の認知リハビリをしたからこそ、事故後の症状経過を示す豊富な医学的資料(証拠)が、担当セラピストによって残されていたのです。
※高次脳機能障害自立支援普及事業・地域ネットワークに所属している医療機関で診療を受けることの重要性については、弁護士法人穂高ホーム・ページの『間違いだらけの高次脳機能障害 第2回 Q&A』をご参照下さい。
もし、この被害者が、高次脳機能障害自立支援普及事業・地域ネットワークに所属していない医療機関を受診し続けていたのであれば、実際にこの被害者が事故後1年間体験したように、脳MRI画像で異常がないというだけで脳損傷を否定され診療の対象外とされる結果、症状経過を具体的に示す医学的資料(証拠)は何も残っておらず、当事務所としても立証はおろか、分析すらできなかったと思われます。