高次脳機能障害で泣き寝入りしないための10の鉄則:自賠責保険で適正な等級認定を受けるポイント

自賠責保険で適正な等級認定を受けるポイント

自賠責保険が等級認定に際してよく悩んでいる等級は、5級、7級、9級に該当しそうな事例です。すなわち、1級から3級は、比較的簡単に認定されますが、5級か7級か、7級か9級か、については、そもそも上記の等級基準自体が不明確であることも相まって、認定が困難です。

しかし、それでも、自賠責保険が等級認定の決め手としている資料は、日常生活状況報告表です。医師作成の「脳外傷による精神症状等についての具体的所見」については、高次脳機能障害は診察室ではわかりにくいという特性があることから、あまり参考にしていません。実際、その記載内容になっている「性的な異常行動」があるかないか、診察室の中だけの付き合いしかない医師にわかるはずありません。

そして、自賠責保険が等級認定の決め手としている日常生活状況報告表のうち、特に重視している記載事項があり、自賠責保険はまずその記載内容から検証します。しかしこのホームページで、それを公表することは差し控えさせていただきます。不正の保険金請求を助長する結果になりかねないからです。

ただ、適正な賠償を受けるために是非とも必要な事項について、以下にアドバイスします。

日常生活状況報告表の記載上のポイントと留意事項

自賠責保険が重視しているのは、主治医では絶対に知り得ない、意識回復時から症状固定時までの詳細な具体的症状とその症状経過です。被害者を毎日見ているご家族や介護者が記載された被害者の症状の具体的内容、エピソード、事件内容に関する記述を重視しています。そして、その記載内容が、ウェクスラー成人知能検査など各種神経心理学的検査や医師作成の「神経系統の障害に関する医学的所見」と大きく矛盾していないかを検証し、矛盾がないときはそれを等級認定の決め手としています。意識回復時から症状固定時までの詳細な具体的症状とその症状経過は、空欄に書き切れるものではありません。必ず陳述書として別紙で記載する必要があります。

ご参考までに紹介しますと、当事務所の依頼者の方の別紙陳述書のページ数は、時系列表も含めますと、最低でも20ページを下ることはありません。症状の深刻性を自賠責保険が認識して適正な等級認定をすることが可能となるには、別紙陳述書のボリュームはかなり膨らむのが通常だと思われます。

主治医に対する情報提供

ご家族や介護者作成の「日常生活状況報告表」と医師作成の「神経系統の障害に関する医学的所見」に大きな矛盾があるときは、等級認定の判断に疑義が生じてしまいます。そして、医師は被害者の症状の詳細は知りません。ですから、知りもしないのに医師の想像で勝手なことを記載されては困ります。中には、ご家族や介護者に対し「私にはわからない。だから情報提供して欲しい」という良心的な主治医の方もいらっしゃいますが、全てではありません。ですから、あらかじめ日常生活状況報告表を作成しておき、それを主治医に交付し、それを参考にして主治医に「脳外傷による精神症状等についての具体的所見」を記載してもらうのがいいでしょう。そうすることにより、つまらぬ誤解を受けることを防ぐことが出来ます。

職場の上司や同僚の陳述書、セラピストの報告書、作業所の指導員の報告書等を作成

等級認定のファクター⇒日常生活上の支障内容/就労上の支障内容
自賠責保険が、ときに、ご家族や介護者が作成された「日常生活状況報告表」以上に重視している等級認定の資料として、職場の同僚が作成した被害者の就労状況に関する陳述書があります。等級認定のファクターは、日常生活上の支障内容と就労上の支障内容に二分されます。そして等級認定は、本来、労働能力喪失割合の等級認定ですから、どちらかというと日常生活上の支障内容に関する情報より、就労上の支障内容に関する情報の方が、直接的な判断資料となります。ところが、被害者が事故後、職場復帰をされているときは、職場での被害者の就労状況は、ご家族や介護者は直接には知りませんので、就労上の支障内容についての有為な情報が提供できません。

事故前と事故後の就労状況につき最も熟知している人は、職場の上司、同僚、部下です。自営業の方であれば得意先の方や仕事仲間です。よって、被害者の就労上の支障内容を自賠責保険に情報提供することによって適正な後遺障害等級認定を受けるには、職場の上司や同僚等が作成した被害者の就労状況に関する陳述書を提出することが是非とも必要です。自賠責保険から、職場の同僚等の陳述書を提出して欲しいとの要請があるわけでもないので、適正な等級認定を受けるには、自主的に提出する必要があります。ところが、その陳述書の作成に際しては、往々にして大きな壁が立ちはだかることがあります。すなわち、職場の上司や同僚の方は、口頭では、ある程度、被害者の協調性の欠如や集中力や判断力の低下、易怒性等について情報提供してくれます。しかし、いざそれを文書で再現したものを示して、それにサインを求めても、サインを拒絶される場合があるのです。被害者が、まともに働けていないことの証言は、人の悪口の部類に属することであり、それを文書で明確化して文責を問われることには、どうしても躊躇を覚えてしまう、というのがその原因です。

特に、サインを拒絶される場合が多いのは、被害者が、事故後に新たな職場に就職したケースです。被害者が、事故前と同じ職場に復職したときは、職場の人達は事故前の被害者の様子を良く知っていることから、被害者の数々のトラブルは事故による脳外傷がそうさせているのだと理解することができ、被害者にある程度同情的です。これに対し、被害者が事故後に新たな職場に就職したケースでは、職場の人達は事故前の被害者のことを全く知りません。ですから、「もともと使えない奴だったんだ」「根っからの変人だ」「よくぞこれまで社会人として暮らして来られたなあ」「華々しい経歴が記載された履歴書は経歴詐称ではないのか」「人事はどうしてあんな奴を採用したんだ」とか散々の評価です。被害者に対し、怒りや不満はあっても、同情して協力する気になれないようです。数多くのトラブルとそのフォローで、「俺達こそ被害者だ。散々迷惑をかけられた俺達が何故、協力しないといけないんだ」という心境になっているようです。我々の事情聴取には応じてくれますが、それは被害者に協力する意思からしているのではではなく、自身の溜まった不満や怒りを我々に対しぶつけているに過ぎないという傾向にあります。散々迷惑をかけられたことで被害者に協力する気になれないようです。もちろんサインしたことによって裁判所から証人申請でもされようものならたまったもんじゃない、という心理も働いています。
解決方法としては、ご家族の窮状を説明して粘り強く交渉する他ないのが現状です。

復職出来ていない障害者の場合は担当セラピストの報告書、福祉就労されているか通過施設で職業訓練されている障害者の場合は作業所指導員の報告書を資料として提出しておくことは極めて有力です。セラピストは、認知リハビリのプロですし、作業所の指導員は障害者に対する豊富な知見があるので、それらの報告書の記載内容は極めて信憑性が高いものとされています。

特に、担当セラピストの報告書は貴重です。

裁判で、高次脳機能障害の症状の程度が争点となっている場合、双方の当事者から医師による意見書が提出されるのが通常です。しかし、当事務所は可能な限り、患者を担当した言語聴覚士・作業療法士・臨床心理士等の認知リハビリテーションの担当セラピスト作成の報告書を提出するようにしています。主治医に比べて障害者に直接接している時間が圧倒的に長く(最低でも1回あたり1時間)、従って障害者に対する一次情報量も桁違いに豊富だからです。医師が診察室の中から患者の高次脳機能障害の程度の評価をするのはほとんど不可能であり、その判断資料の大半をセラピストや家族情報の報告により得ているのが実情です。

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自賠責保険の後遺障害等級認定システムの概要

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自賠責保険の等級基準及び認定上の問題点

高次脳機能障害で泣き寝入りしないための10の鉄則
はじめに
~未だに見放され途方に暮れている高次脳機能障害者とその家~
高次脳機能障害の一般的理解
自賠責保険の後遺障害等級認定
システムの概要
自賠責保険で
適正な等級認定を受けるポイント
自賠責保険の等級基準及び
認定上の問題点
軽度外傷性脳損傷(M-TBI)に
よる高次脳機能障害1
軽度外傷性脳損傷(M-TBI)に
よる高次脳機能障害2