交通事故被害で泣き寝入りしないための7つの鉄則:他覚所見を得る方法

他覚所見を得る方法

自分の症状経過を克明にメモしておく。

鉄則4

そのメモを主治医に交付し、カルテに綴じてもらうなど医師との正確な意思疎通を図る。

鉄則5

必要な検査をその都度主治医にしてもらうよう依頼する。

鉄則6

特に、頭痛、項部痛、腰部痛、上肢・下肢の疼痛・麻痺・知覚異常・痺れ等の神経症状、膝崩れや膝の不安定性の症状については克明にメモし、必要な検査をしてもらうよう医師に依頼する。また、意識不明の状態になった被害者や、そこまでいかなくとも頭部打撲の被害者のご家族の方で、被害者の異変に気づいたときは、その日から被害者の言動に関する克明なメモを取っておく。

ここまでのことから、被害者は医師任せにせず、他覚所見を得るための各種の検査を医師に依頼することが重要と言えますが、そのためには被害者自身でも、ある程度の検査方法を知っておくことが有益です。

それでは、他覚所見を得る方法として、どのような検査方法があるのでしょうか。これについては、多種多様な検査方法が膨大にあることから、全てを紹介することは不可能であり、医師でさえよく知らない、あるいはほとんど使わない徒手検査方法だけも膨大な数にのぼります。

本稿では比較的ポピュラーな検査方法として、自賠責保険の後遺障害の等級認定の研修用の冊子に紹介されている検査方法で、かつ、後遺障害の認定を受けることが最も難しい「精神・神経系統」の後遺障害の有無・程度に関する検査方法を中心に紹介します。

後遺障害認定の現状

レントゲン(単純X-P)

骨折等、骨の器質的変化を見るのに有効です。しかし、血管、神経、椎間板、関節軟骨等の軟部組織はX線をあまり吸収しないため、コントラストが出ず、有効ではありません。身体のある断面をX線像として得る断層X-Pでもその効果はあまり変わりません。そこで、血管、椎間板、脊髄腔等に、X線を吸収する造影剤を入れてX線撮影を行う造影X-Pがありますが、身体へ造影剤を注入するのは侵襲的であるため、オペを前提としない限り一般的ではありません。後遺障害の他覚所見を得るためにだけに撮影されることは、まずありません。

脳血管撮影法(アンギオグラフィー)

脳の血管に造影剤を入れて、X線やMRI撮影をするものです。クモ膜下出血等で、原因が外傷によるのか脳動脈瘤破裂等によるのか区別するときなどに使用します。脳の血管に造影剤を注入する点で侵襲的であり、検査後長時間の安静臥床が必要なうえ、肺塞栓の危険性もあるので患者さんの負担が少なくありません。ですから、オペを前提としない利用は一般的ではありません。最近では、造影剤を使用しないMRアンギオグラフィーが主流となりつつあるようです。

CT(コンピュータ断層撮影法)

脳挫傷や頭蓋内出血腫等を短時間で検査するのに威力を発揮します。ただし、アーチファクト(偽像)が発生しやすいという欠点があります。また、コンピュータによって画像を構築しているので、CT画像は必ずしも実像を示しているわけではありません。

MRI(磁気共鳴画像法)

X線を使わないため被爆がなく、特に軟部組織の描写に優れています。また、任意の断層面を撮像できるため、横断面だけでなく、矢状面・冠状面も撮像することができます。ただし、撮影に時間を要するため、緊急の救急治療には向いていません。なお、CTやMRIは断層面の撮像だけでなく、立体的な画像(三次元画像)を得ることができますが、一般的ではありません。

SPET及びPET

いずれも脳内の血流量を測定するもので、びまん性脳損傷で精神症状及び記憶障害のある患者の慢性期の脳循環代謝において、側頭葉、前頭葉の脳血流や脳の代謝の低下が報告されていることから、少なくとも、脳の機能的低下の客観的所見となりえます。SPETの方が簡便なため多用されているようであり、PETについては、それを置いている医療機関はほとんどないうようです。

H-MRS

MRSは、CTやMRIでは正常に見える脳白質の顕微鏡的レベルの異常を測定・検出できる検査方法ですが、びまん性軸策損傷があるとき、細胞レベルのNAA(ミトコンドリア内のエネルギー産生の指標)が減少し、Cho(細胞障害性の膜変化の指標)が上昇すると報告されています。北海道立札幌肢体不自由児総合センター小児神経外科長沼睦雄医師は「MRSで、大脳白質の器質的(病理的)変化を検出し、びまん性軸策損傷の存在を裏付けることができる。」と明言されておられます。但し、非常に高価な医療機器で、これを置いている医療機関は少ないとされています。

脳波検査

人間の脳は、考えている時だけではなく眠っている時にも活動しています。脳が活動すると、脳の中には微弱な電気が流れます。脳は言わば弱い発電所になっているわけです。この脳から発生した電気をとらえたものが脳波です。脳に病変があれば、特有の波(異常脳波)を示します。異常脳波は、主に棘波と徐波に大別されますが、棘波は主としててんかん性の疾患に現われ、徐波は頭部外傷や脳血管障害等の脳の機能低下をきたすような病変に際して現われます。

深部腱反射の検査(腱反射テスト)

例えば、膝の下をゴム製の打腱ハンマーで叩くと、膝がピョンと跳ね上がってしまいますが、それは健康体だからです。ところが、末梢の反射神経に障害があれば、反射は低下あるいは消失し、逆に、脳または脊髄に障害があれば、反射は亢進(増強)します。
反射運動は作為的に出来ません。刺激は脊髄を通りますが、大脳まで昇ることがないからです。ですから詐病のおそれがない点で、有効な検査とされています。

病的反射検査

病的反射とは、正常の状態では認められない反射で、中枢神経系の障害 (錐体路障害)の場合に陽性となるため、その診断に有用です。病的反射には、上肢のホフマン反射やトレナムー反射、下肢のバビンスキー反射等があります。その他、膝クローヌスや足クローヌス等もあります。これらも詐病のおそれがない点で有効な検査とされています。

スパーリングテスト

頸部の神経根障害の有無を調べる検査です。頭を斜め後方へ押し付けると、神経根に障害がある場合は、その神経根の支配領域がある上肢(首ではありません)に放散痛シビレ感が生じます。痛みやシビレ感の生じた部位によって、何番目の神経根に障害があるのかをある程度予測することができます。被験者の作為が入り込む余地があるため、あまり有用視されていないふしがみられます。

ジャクソンテスト

頸部の神経根障害の有無を調べる検査です。頭を後屈させ、押し付けて調べます。通常、スパーリングテストとワンセットで実施されますが、この検査方法も、被験者の作為が入り込む余地があるため、あまり有用視されていないふしがみられます。

筋電図・神経伝導速度

筋電図検査

筋の収縮に伴って発生する電位を測定・記録する検査法です。体を動かしたり、力を入れたりすると筋肉の細胞から微弱な電気が生じます。この電気をとらえて記録する検査です。針筋電図と神経伝導検査をあわせた2方法があります。痺れ、麻痺、力が入らない、筋力低下等がある場合に、手や足の末梢神経障害(運動神経・知覚神経)の有無、程度、部位が科学的に判明します。人体に針を刺すことから、施術者が医師に限定され、被験者も痛みを覚えることから、広く利用されているわけではありません。

神経伝導速度検査

同一神経の2点に電気刺激を加え、その反応電位の波形の時間的ズレから、その間の神経伝導速度を測定する検査法です。神経に異常があれば、伝導速度の遅延が起こります。そこで、運動神経、知覚神経の伝導速度を調べて、神経障害の有無、部位、程度を科学的評価するのです。これも被験者の作為が入り込む余地はありません。この検査方法は、針を刺しませんので、医師だけでなく臨床工学技士も取り扱うことが出来きることから、臨床の場で広く利用されているようです。ただし、この検査方法によって解析出来るのは、正中神経や尺骨神経等の太い神経に限られ、例えば、足の甲や指先の感覚麻痺等の所見は、神経が細か過ぎてデー ターが得られないとされています。価格や利用頻度の関係で、どこの病院にも置かれているわけではなく、大規模病院に限られています。

※上記のいずれも検査も、自賠責保険の後遺障害の認定においては、さほど有用視されていないようです。その理由は、検 査結果の評価が統一されていない、医師によって評価にムラがある、という点にあるようです。実際、自賠責保険は、神経伝導速度に左右差が認められても、その差異がよほど大きな場合でなければ「有為な異常所見が認められない」との理由で、12級相当の神経障害を認めていません。

知覚検査

知覚検査は、筆とか針などの素朴な器具を使って、触覚、痛覚、温度覚、位置覚、振動覚、二点識別覚などを調べる検査です。神経の障害部位や範囲と知覚異常 の領域には密接な関係があるので、知覚障害の分布を調べることによって、神経の障害部位を探り出すのが知覚検査目的です。被験者の作為が多分に入り込む余地があるので、有用視されていません。筋電図テストや神経伝導速度テストをするか否かを見極めるための前段階のテスト、という意味合いが強い位置付けに なっているようです。

握力検査

神経麻痺を起こすと筋力低下をきたすことから実施されるものです。しかし、握力低下は、筋肉や関節が痛くて力が入らない場合や、手がだるくて力が入りにくいといった場合にも起こり得ることや、被験者の作為が容易であるため、参考程度にとどめられているようです。

徒手筋力検査(MMT)

徒手筋力判定表

神経が障害されたときは、その神経に支配されている筋の筋力が低下します。筋力検査は、どの神経がどの部位で、どの程度障害されているのか、ある程度予測をつけるために行います。検査方法は、検者と被験者の力比べという素朴な方法です。筋力検査には、徒手筋力判定表が一般に使われていますが、神経障害だけでなく、筋そのものの障害、疼通、脱力感、心因反応などにより筋力が低下するケースも多いため、必ず両側を調べます。右表のうち、「3」の数値が医師の腕力による誤差が少なく信憑性が高いとされていますが、これも、被験者の作為が多分に入り込む余地があるので、自賠責保険では、参考数値に止め、さほど有用視されていないようです。

筋萎縮検査

筋萎縮とは、骨格筋が量的に減少することです。長い間寝たきりでいると足が細くなるように、麻痺が長く続いた結果などに起こります。筋萎縮の検査は、左右 の筋肉の状態を視診、触診あるいは周径を測って調べます。当然、被験者の作為が入り込む余地はないので、有用視されています。

皮膚温検査

末梢神経の障害では、その障害が末梢の血流に影響を与え、皮膚温の低下などをきたす場合があります。このような場合に、皮膚温の状態を調べる方法として、サーモグラフィーなどがあります。

平衡機能の検査

グルグル回る、フラフラする、目の前が暗くなる、体がよろける等のめまいの原因が、身体のどの部位(内耳、脳、その他)の病気でおこるのか、またその病気がどの程度の重症度かを調べるために行う検査です。目のまわりに電極を貼り付け、一箇所を注視したり、頭を前後左右に動かすなどして目の動きを記録したり、実際に特種なメガネをかけてもらって目の動きを観察することにより、めまいの有無、程度、種類を調べます。平衡機能検査は大別すると、身体・四肢に現れる異常を検出するための検査と、眼球運動に現れる異常を検出する検査に分けられます。身体・四肢の検査には、体位が自動的あるいは他動的に変化した場合に、頭部や躯幹を正常位置に戻す働きを診る立直り検査と、全身の骨格筋緊張の左右非対称の表現形である偏奇をより明確に、そして客観的にとらえようとする偏奇検査があります。立直り検査には、ロンベルク検査、マン検査、斜面台(ゴニオメーター)検査などがあり、偏奇検査には、指示検査、遮眼書字検査などがあります。眼球運動の検査には、フレンツェル眼鏡を使用する頭位眼振検査、温度刺激を加える温度眼振検査、視覚刺激による視運動眼振パターン(OKP)検査などがあります。

腰椎穿刺検査

脳脊髄液を採取する検査のことで、原因不明の意識障害や髄液変化の神経疾患、具体的には、髄膜炎やクモ膜下出血の有無を検査するときに行われます。髄液は脳や脊髄のクモ膜下腔を循環して、脳・脊髄の保護作用等の機能を有していいることから、背骨から針を刺して脊髄まで入れることにより、髄液の通過障害を診ようというものです。当然、強い痛みを感じ、侵襲的であることから、一般的な検査ではありません。

眼底検査

この検査は、糖尿病検査で有名ですが、眼底(眼球の奥)の状態を見ると、脳圧亢進状態がわかるので、頭部外傷の検査でも眼底検査を行います。簡単で有効な検査です。

WAIS-R

知能段階表

Wechsler Adult Intelligence Scale-Revisedの略語で「ウエイス・アール」と呼ばれ、”ウエクスラー式知能検査”のことです。WAIS-Rは、知能の標準検査としての信頼度が高いのですが、長谷川式検査やミニメンタルステートといった簡易検査が5~10分でできるのに、WAIS-Rは2時間近くかかるといわれており、検査に時間をとられる点が難点とされています。テストの内容は、大きく分けて、言語IQの検査と動作IQの検査があり、言語IQの検査の中には、知識、数唱、単語、算数、理解、類似の各検査があります。動作IQの検査には、絵画完成、絵画配列、積木模様、組合せ、符号の各検査があります。測定の目安とされている数値は、右表のとおりです。

Y-G性格検査、MMPI性格検査

性格検査とはパーソナリティを把握するための心理検査。質問紙法、投影法、作業検査法に分類されます。Y-G性格検査(矢田部-ギルフォード性格検査)やMMPI性格検査(ミネソタ多面人格目録)は、いずれも質問紙法であって、質問項目に被検者が答え、回答結果を点数化する事によりパーソナリティを捉える検査方法です。検査の施行と結果の整理が簡単であるという利点があり、特に、Y-G性格検査は、学校でのカウンセリングや職業指導、就職試験、警察、裁判所など、幅広い分野で使われています。

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